まちなか・身近にあるものを「自分ごと」に|宮城大学 OB ともさんに仙台のまちの見え方の話とか聞いてきた【インタビュー】

──────宮城大学。

それは、大和と太白にキャンパスを構え、「実学」を掲げた教育に取り組む大学。

宮城大学は,地域課題を解決する研究と社会連携を推進し、これらに基づいた教育により地方創生とその発信を先導しうる人材を育成します。

引用:https://www.myu.ac.jp/about/

事業構想学群・看護学群の学生が通う大和キャンパスに関しては黒川郡大和町に位置し、ニッチな立地をdisられることもしばしば。しかしながら、宮城県内でローカルなお仕事に取り組む才能たちをポコポコ輩出しているのだ!

▲宮城大学 大和キャンパス(の、デザイン研究棟)

宮城大学 事業構想学部 出身の才能 一例(敬称略)

<社会実験「MOVEMOVE」に関わった人>
・奥口 文結(ブランディングデザイナー)
・貝沼 泉実(建築家)

<文学、文藝>
・くどうれいん(作家)

<ウラロジ仙台の周りの人>
・キッド(せんだいマチプラ編集長)
・恐山R(ウラロジ仙台編集長)

などなど

 

筆者の私も宮城大学が生んだ才能であるかどうかは置いておいて……ウラロジ仙台は「春から東北大」「あいつら全員同好会(サークル紹介)」などの切り口で東北大学を特集することが多い。とはいえ当局から金は一銭も受け取っておらず、ただ面白いから取材を続けている。

「東北大学以外の学校も特集できたら」と考えたところで、この宮城大学に着目したものの、正直なところインタビュイー選出には悩んでしまった。マジで立派なプロジェクトしか無い。

例)泉区の多世代交流拠点「寺岡 Knots」運営

2022年に立ち上げ。宮城大学・三菱地所との協業事業で、地域交流スペースとしての役割を担う「寺岡Knots」を学生目線で盛り上げていく取り組み。

泉パークタウン寺岡地区に多世代交流拠点「寺岡 Knots」がオープン,宮城大学生が施設名称・ロゴ・テーブルをデザイン/事業構想学群https://www.myu.ac.jp/academics/news/folder002/2022/5627/

10/30【宮城大学×三菱地所】宮城大学生が泉パークタウンの多世代交流拠点「寺岡Knots」で地域住民向けハロウィンパーティを開催しましたhttps://www.myu.ac.jp/academics/news/folder002/2022/6335/

果たして、そもそも宮城大学には斜に構えまくったウラロジ仙台の編集方針に合うトピックがあるのか。そこで、インターネットに住んでいるなりに私が導き出したのが、公共交通や仙台を始めとした都市の話題への関心が異様に強い宮城大学生のTwitter(現・X)アカウント。

 

その名も、ともさん。



▲強い意志を感じるぜ。

 


▲なんならつい先日、初心者向け・仙台のグルメネタツイでバズっていた。

宮城大学 事業構想学群 地域創生学類/2018年に入学し、2023年度には修士過程を修めて卒業した、ほやほや新社会人。それも、マニアックな「公共交通」に関心がある!宮城をディープな目線から愛する「ガチ勢」カテゴリを掲げているウラロジ的にもピッタリな人じゃないか!

2024年 の #春から宮城大 は「宮城ガチ勢」のOBインタビュー!

そんなわけで、卒業生枠ではあるものの、今回はともさんへインタビューすることにした。学生ながら都市や公共交通に強い興味関心、郷土愛を持ったきっかけや、地域を知る面白さの根源、宮城大学での話を聞くため、我々は泉パークタウン・寺岡エリアを抜けた奥地にある宮城大学大和キャンパスへ向かった……。

お気づきでしょうけれど、上の写真は宮城大学でも寺岡でもなくアマゾン川(ブラジル)です。

都市に関心を持つようになったのは貧乏旅行!?

─本日はよろしくお願いします。さっそくですが、ともさんが宮城大学に進学したのも元々都市や交通に関心があったからなんでしょうか。宮城大学を志望したきっかけなどがあれば。

志望校選定〜入学時までは、そうでもなかったですね。国公立大学に行けたらいいと思っていたし、学部が「事業構想」とか珍しいし、なんか面白そうだなと思って。ただそれだけなんです。

仙台は自分が生まれ育った土地ですが、大学入学当初は郷土愛どころか、プラス・マイナスどちらの感情もなかったと思いますし……。

▲ともさんはかっちりとした服やスーツスタイルが好きなんだって。取材用にスーツではなく、これがデフォルト。

─「ふーん、おもしれー大学」ってこと?では、今の興味関心に至るまでは、どんなきっかけがあったんでしょう。

ちょっと昔話になりますが、大学1〜2年の頃はネカフェを利用しながら日本各地へ貧乏旅行をしていて……まさに、世間一般で言う大学生らしい感じでしたね(笑)。旅先では同じ趣味を持つインターネット友達とオフ会とかもしてました。北は北海道から、南は九州まで。

─エンカ楽しいもんね。

その中で、宮城から出てみないと分からなかったことに気づくようになったんです。当たり前だけど地域柄の違いって、よその土地に行ってみて初めて分かることも多いんです。実際、他県から仙台に帰ってくるとホッとするような感情があったし、日頃の生活環境として恵まれているんだなあと実感することが多くて。他県も見るにはすごい面白いんだけど、私からしたら「ここ住むってなったら、結構大変かもしれないな」と感じるようになった。

他県に行く時は有名な観光地より、街と、その街で暮らす人たちの営みを見ることにフォーカスしていたと思います。気づいたら商店街やスーパー、駅だったり人や街並みを見てまわっていました。そこから都市を見ることに関心が湧いたのかもしれません。他の土地に行くことで、当たり前に暮らしていた仙台も、ひとつの「都市」としての評価軸で見るようになっていきました。

─貧乏旅行で旅行先に引き込まれるというより、仙台の見え方が変わってきた。具体的に、どんなことに気づきましたか。

仙台だと、欲しいものは都心部に行けば大体手に入るし、人も多過ぎず少なさすぎず、なんだかんだ車なしで移動しやすいのもポイントだと思っています。自然も豊かで、アウトドアを楽しめますし。私も登山が好きなので、そこはいいなと。

それに、個人的には住宅街を歩くだけでも娯楽になります。よく「仙台は遊び場が無い」って言われますけど、むしろそういうことを娯楽にする人が増えれば遊び場は無限に広がっていくのにって感じました。

▲取材日には紫山、寺岡周辺の住宅街を案内してくれた。確かに歩いているだけで人の営みを感じられて楽しい。そして、なんだこのカサカサの植物は(モミジバフウというらしい)。

─「遊ぶ」手段も、アミューズメントだけじゃないですからね。旅行していた中で、印象的だった都市はありましたか。

ダントツで、福岡。人口がここ5年くらいで増えているので今はちょっと変わっているかもしれませんが、仙台のような住みやすさ・居心地の良さを感じました。地下鉄、鉄道、バスなど公共交通も充実していて、欲しいものが手に入るし、自然も感じられる。こう言うと仙台と似ているんですが、福岡の方が活気を感じるといいますか。

─福岡は「日本の都市特性評価」でも大阪・横浜・名古屋に次いでスコアが高かったですしね。

福岡はまず、行政の取り組みがすごいんだなって感じました。天神ビッグバンってご存知ですか。

─ビ?

解説します……。福岡市の天神は仙台で言うと一番町みたいな場所で、仙台と同じように再開発が予定されているエリアです。それが、すごくわかりやすいエリアビジョンを提示しているんですよ。それが、天神ビッグバン。

天神ビッグバンとは

天神ビッグバンは、警固断層等のリスクがあるなか、更新期を迎えたビルが耐震性の高い先進的なビルに建て替わることにより、多くの市民や、働く人・訪れる人の安全・安心につながるもので、さらに都心部の機能を高め、新たな空間や雇用、税収を生み出すプロジェクトです。

建替えにあわせ、水辺やみどり、文化・芸術、歴史などが持つ魅力にさらに磨きをかけ、多様な個性や豊かさを感じられる、多くの市民や企業から選ばれるまちづくりに取り組んでいます。

引用:https://www.city.fukuoka.lg.jp/jutaku-toshi/kaihatsu/shisei/20150226.html

仙台は人生の折り返し地点となりうる街だ

悲しい話、自分の場合はこんな風に他県の都市を見て、仙台市を客観視してやっと郷土愛が芽生えたんです。ただ、感覚でしかないですけれど、5〜6年前より郷土愛をもつ若者は増えているんじゃないかと推測しています。他県に進学・就職した人も30〜40代で仙台に戻ってくる印象がありますし、若者の人口流出超過の傾向が見られると言っても、戻ってきている人とそうでない人も合わせた数字が出ていますよね。仙台市では若者が他県に流出してしまうことを深刻に捉えがちだけれど、そこが今後、どう変化していくかなってところです。

─裏を返せば、他県で研鑽したスキルを持って、ベテラン世代が帰ってきてくれているということになりますからね。

そうですね。人生の折り返し地点の街っていうブランディングもありなのかな、なんて思いますね。

学生時代にターニングポイントとなった講義「交通計画」

─たしかに、「ただいま」を受け入れてくれる街ってのも素敵かも。さて、いったん宮城大学の話に戻りましょう。ともさんは学部3年生の時にコロナ禍が直撃して……その後、大学院に。

実のところ、4年生の頭くらいには内定もいただいていたんですが、論文含めて「アウトプットをここで終わらせていいのか」と感じて院への進学を決めました。

3年生の時に交通政策の問題などを扱う「交通計画」という講義があって、結果的にそれが専攻分野になりまして。この分野の問題の大きさに対して世の中的には解決への熱量が少ない傾向にあるようだし、「自分がやらなきゃ」と感じたんです。

─人生が変わるほどの講義が宮城大学に。何か印象に残っているレクチャーや課題なんかはありますか。

え〜!?受けたのは数年前だし……そうですね、強いて言えば最終課題のレポートで課されたテーマが「仙台or自分の地元の交通課題を挙げるとともにその解決策を考えよ」というものだったんです。それが印象に残ってます。

自分はその課題で将監トンネルから泉中央地域の道路の改良を提案しました富谷市の人口増から、特に信号の多い泉中央エリアが慢性的に混んでるのをどう解決していくかといった内容で。横断歩道を歩車分離式信号機、もしくは高架などを使って立体交差(交差点や信号のいらない道路)にする……そういう対策をとって渋滞の原因のひとつになっている、泉中央エリアのボトルネックを解消したらいいのではないか、みたいなことを書いた記憶があります。元々、中学〜高校生の頃は泉区に住んでいたこともありましたし、自分自身が生活のなかで感じていた話題だからこそ結構真剣に考えたと思うんです。

交通は誰にとっても大事なものなのに、世間一般的に関心がない傾向にあるのは残念ですが、その関心を増やして行けば私みたいに考えている人の同志みたいなものを作ることができるんじゃないかという想いもあります。

─世間一般から関心を持ってもらうためにどんなことが必要だと思いますか。漠然とした希望でいいので。

背景として、「公共交通機関を使う人が増えると、世の中全体にさまざまな良いことがある」っていう先行研究がたくさんあるので、私はどうやったら公共交通を使う人を増やすことができるのか、日頃よく考えているのですが。

まず、バスの情報発信が不足している印象があります。市民としても「バスってよくわからなくて乗らない」みたいな話をよく聞きます。そもそもバスに乗った経験がなく、運賃はどれくらいかかるのか、運賃や行き先を知るにはどこを見たらいいのか……。

─どの路線に乗ったら、どこに着くのかとか。

そう。Googleで探してもバス停の場所しか出てこないし。つまり、使う人の気持ちに立った情報提供がされていない。多分「そんぐらいわかるでしょう」ぐらいの感じで、情報提供されてしまっているのだと思います。もう少し寄り添うというか、もうちょっと前提に立ち返るみたいなところ。

たとえば、大きな駅のバスプールで「いつ次バス来ますよ」みたいなサイネージそのものは機能していますが、交通事業者側はそもそもみたいなところで立ち止まってる人もいる事実に目を向けてほしいです。

宮城大学「らしさ」って?講義の枠を飛び出せるチャンスもある

─根本的なところを見直していくのが課題かもしれませんね。そして、また宮城大学の話題に戻すぞ。「ここは宮城大学ならでは」って思うことや学生の特色、印象はありますか。先輩目線で、ぜひ。

まず、先生方がいわゆる大学の先生と違って、風変わりなところがあるのはユニークだと思います!ずっとアカデミックの道一本ではなく、それ以外の経験も持ち合わせている方が多いです。

あと、ビジネスの実践という点で言えば学外に出ていくチャンスも多いので、外の企業や団体など、つながりも多いんです。地域へ出てみることは大切だし、いいポイントだと思います。太白キャンパスの食産業学群も農産業・流通・マーケティング一通り学べますし、まさに実践を重視していますよね。

─キャンパスが違くても実学主義のスタンスは変わらず。その一方で、「ここはあと一歩やな」というポイントはありますか。

良くも悪くも真面目な学生が多い。言われたことはちゃんとやるけど、その他のことにも積極的に取り組む学生が少ない印象です。単位を取るためのこと以外も、やってみると面白いことが転がっているし、講義以外で先生と関わるのも面白いはずですから。

▲後輩たちと談笑するともさん。左3人、「寺岡Knots」運営プロジェクトのメンバーです。

─講義や課題だけではなく、有志の集まりとかにも目を向けてみましょうということで。最後に新入生や後輩、もしくは地域のことに関心ある人へメッセージをお願いします。

地域との向き合い方として趣味と学問の面があると思ってるんです。

趣味の面で言うと、これまで積み重ねられてきたまちの変化に想いを馳せるところに価値を感じます。たとえば、このエリアは地下鉄ができるはずだったのにどうして通らなかったのかなとか。そこに、学問としての都市も重なっていく。例えば地下鉄ができなかったのは、予測ほどは人口が増えなかったからだなとか、既に作った地下鉄の乗客数が伸び悩んだからだなとか、例えばそういうのは過去の自治体の資料とか、人口統計とかを見たらわかるわけです。そういうことをやるのが、学問の入り口ですよね。

人の営みも含め、学問としてその都市を捉え直してみると過去に描いた理想の姿にはなっていないことも多いですし、それを今後実現していけたらいいなとか。

趣味として地域に向き合ってみる第一歩として、行ったことのない駅や団地にいってみるとか、自分の足を使って歩くのが大事だと思います。大学のフィールドワークも大事ですが、大学側が用意した枠にだけおさまるのはもったいないです。もっと地域の中に入っていってもらえたらいいなと思ってます。

大学側が用意した枠以外にも余白がある

講義の中の課題ひとつとっても、柔軟なアプローチでまじめに取り組む傾向にある宮城大学生。

でも、自ら足を使って用意された枠をはみ出していくことも重要だと教えてくれたともさん。枠からはみ出して、新たな気づきや違和感から「こうしてやるんだ」となるのが真の事業構想なのかもしれません。

──────ここは泉パークタウン・寺岡エリアを抜けた奥深くの宮城大学。実学重視のカリキュラムと、地域へ飛び出す余白がある大学。そして、全力でその余白を楽しめる場所。

さあ、宮城大学生諸君。君たちは4年間、どうやって過ごす?

〜今後も、調査は続く〜

取材日:2024年3月4日
協力:「宮城大学」アカウントの中の人、寺岡 Knotsチーム
ともさんの素敵なアイコンの製作者さま:ゆーろ
執筆:恐山R