【トリセツ第2期】なぜ!?世間の評価は高いのに自分はあまり好きになれなかった映画・7選

トリセツ

トリセツ第2期、スタート

読者の皆様、こんにちは。編集Sです。

これまでウラロジ仙台では、「トリセツ」と題して、編集部メンバーの人となりを紹介するインタビュー記事をアップしてきました。

我々編集部にも親しみと関心を持っていただくきっかけになればと始めたこのコーナー。メンバー全員一周しちゃったし、もう畳んでもいいかな……自分の締切減るし……とも思いましたが、これからはもう少し狭く深く、それぞれの好きなものを掘り下げていく不定期連載をスタートすることになりました。

まだまだ映画の話をします

映画に関する話題は万人に通じる会話デッキだと思っていたら実は全然そんなことなさそうなことを悟りつつ、まだまだ見て見ぬ振りを続けて映画の話をしていきたいと思います。いいんだよ、編集長だってずっとハーコーとかノイズサウンドとかの話してるんだから……

これまでは冬っぽいおすすめ映画おすすめのB級映画など、編集部メンバーが個人的に好きな映画をご紹介してきました。今回は少し趣向を変えて、「世間の評価は高いのに自分はあまり好きになれなかった映画」をテーマにいくつかの著名なタイトルをピックアップしてきてもらいました。

テーマがテーマなので、好きな映画のネガティブ寄りな感想を意図せず目に入れてしまわないよう、そしてネタバレ防止の観点から、本記事で取り上げる映画のタイトルを先んじて箇条書きにしておきます。

  • 『ハウルの動く城』『崖の上のポニョ』などのジブリ映画
  • 『LAMB/ラム』
  • 『悪は存在しない』
  • 『キングスマン』
  • 『ジョン・ウィック』
  • 『すずめの戸締まり』
  • 『ドライブ・マイ・カー』

観たことがあるタイトル、ありましたか?もし観ていなくとも、「名前だけは聞いたことがある」「なんとなくのあらすじは知っている」という作品が多いのではないでしょうか。

ニッチでマイナーなコンテンツを扱うことが多いウラロジ仙台ですが、かといってメジャーのアンチというわけではありません。いやほんとに。いかに逆張り天邪鬼とはいえ、「いいものはいい」「売れるものってやっぱり面白いな」と認められる感性もちゃんとあります、というか、持っていたいと思っています。

つまりですね、広く人気のある映画だからといって斜に構えて偏見や先入観を持って観てきたわけではないということをご承知おきいただきたいのです。これは「他の人と違う感性持ってる俺かっこいい」という自虐風自慢ではなくて、流行りに乗っかりきれなかったはみだしものどうしで傷を舐め合おうという、薄暗くて後ろ向きで陰湿な歓びのための記事なのです。

それに(言い訳)、どうして苦手だと感じたのか言語化することで自分の好きなものの輪郭がより鮮明になるはず。「なぜ苦手なのか」を深堀りするのは「なぜ好きなのか」という疑問に向き合うことと近しいのではないでしょうか。……詭弁かな!?

それにそれに(言い訳その2)、気温が一気に下がって気分も落ちがちな季節ですが、そこで無理にテンションを上げようとしても疲れてしまうかも。落ちるならとことん底まで落ちていくために、そして改めて著名な映画に触れてみるきっかけづくりのためにも、世間の評価は高いのにウ編的にはハマらなかった映画の話にお付き合いください。

※なお、記事の性質上、どのメンバーが回答してくれたかは伏せて匿名の意見として紹介します。ご了承ください。基本的に私以外のメンバーがチョイスしていますが、私も観たことがある作品については私からのコメントも添えております。
※作品の致命的なネタバレが含まれる可能性があります。現在劇場で公開中の作品は取り上げておりませんが、未見の作品のネタバレは避けたい方、これ以上先へ行ってはいけません。

有名だし観ておくか~系

公開当初は特に興味が向かなくても、周りで話題になっているとなんとなく自分も観たくなるもの。「こんなに有名なんだからきっと面白いんだろう」というポジティブな先入観もあいまって、思ってたほどじゃないな……と肩透かしをくらったような気持ちになることもありますね。

ハウルの動く城、崖の上のポニョなどのジブリ映画

  • 観たきっかけ
    ジブリシリーズだし観ておくか、くらいの軽い気持ち。
  • 好きになれなかった点
    子どもの頃はジブリ映画をたくさん観ていた。当時は楽しんで観ていた記憶があるけれど、大人になってから観てみるとどうにも感情移入しにくく、自分を作中のキャラクターに投影できない。最近のジブリは話も難しくなってきていて理解するのも大変。その上、大人になってからは、当然ながらジブリ以外の選択肢も多数持ってしまっている。こういった事情が重なって新しめのジブリは全く観なくなってしまいました。
編集S
好きなジブリ映画は?という質問、ハウル以前と以降で回答数に大きな差が出そう。もちろん長年しっかり追いかけているファンの方もたくさんいらっしゃるかと思いますが、昔のジブリは全部観ているけれど最近は完璧には追えていない、という方も多そうですよね(まあ最近つっても『ハウルの動く城』は2004年公開、『崖の上のポニョ』は2008年公開なのですが)。ストーリーの難解さも近年よく指摘されている印象があります。現時点の最新作である『君たちはどう生きるか』(2023)が公開されたときも「よくわからない」という声が目立っていたような。
個人的には解釈の幅が色々とあるのがジブリの持ち味なんだろうと感じていて、そこを面白いと思うかよくわからんと思うかで評価が分かれそうですね。作中で回答が明確に用意されすぎていない、解釈や考察の余地・余白が多い作品が好きな方にはぴったり、といえるのではないでしょうか。私が観たことのある一番新しいタイトルは『風立ちぬ』ですが、それでも2013年公開ということでもうかれこれ12年前……12年前!?……とにかく劇場に観に行きまして、大変楽しく鑑賞して泣きながら帰りました。あとシンプルに絵柄が好き。

LAMB/ラム

  • 観たきっかけ
    カルト的に評価されている印象があり、周囲でも好んでいる人が多かったため。サブスクで配信されていたことも後押しになった。
  • 好きになれなかった点
    あらすじやラストの衝撃は強く印象に残ったが、全体のテンポがとにかく緩やか。起伏がなく、途中からは「まだ終わらないのかな」と感じてしまうほど。雰囲気重視の演出が自分の好みには合わず、集中力が途切れた。
編集S
これを機に私も『LAMB/ラム』観てみました。実は前から観たいと思っていたのです。で、結論から言うと私はこれかなり好きですね!
「全体のテンポが緩やかであまり起伏がない」という感想もすごく理解できます。ロケーションは基本的に登場人物たちの家orアイスランドの荒野の反復横跳びだし、ジャンプスケア要素がひとつもないので急に怖いことが起きることもない。というか途中までほとんど台詞がない上にBGMもかなりひかえめなので、周囲に人の気配がないド田舎特有の静まり返った空気感に頭のてっぺんからつま先まで浸ることになります。これを楽しめる人にはおすすめできる映画かも。
そしてもうひとつの個人的なおすすめポイントが、タイトル通りたくさんの羊たちと牧羊犬が出てくること。みんなめちゃくちゃかわいい。台詞はなくとも、ずっと顔を見て鳴き声を聞いているだけでなんとなく彼らの表情がわかってくるような気がして、しばらくストーリーはそっちのけで羊と犬を見ていました。生き物好きはあまり退屈しないかもしれません。ただひどい目に遭う子もいるので、動物が痛い思いをするのがNGな人は要注意。ちょっとだけえっちなシーンがあるのでお茶の間での鑑賞には十分ご注意ください

友達のおすすめ系

親しい友人とは、自然と趣味や好みが似通ってくることもあります。そもそも気が合うから友人になれるのだし。
「この人が好きなら自分も好きだろう」「この人がここまで勧めるのなら面白いだろう」と期待して観てみた結果、not for meだったという事例を紹介します。そういうこともある。

悪は存在しない

  • 観たきっかけ
    友人が絶賛していたため、公開当時劇場で鑑賞することに。
  • 好きになれなかった点
    映像美や劇伴は申し分なく、リアルな会話演出にも圧倒されたが、とにかく全体のテンポが穏やかすぎて序盤から眠気に襲われるほど。最後まで「寝ないように頑張って観た」印象が強い。自分はあまり入り込めなかったけれど、寓話的で深いテーマ性もよく理解でき、好きな人は好きな映画だということは強く感じた。特に古典的な会話劇を好む人にはたまらないはず!ゴダールなど好きな方におすすめです。

キングスマン

  • 観たきっかけ
    周りのフォロワーも友人も、とにかく普段親しくしてくれる人たちみんなが絶賛していて、「(匿名)さんも絶対好きですよ」とおすすめしてもらったため。その時点ではみんなの意見を疑うことなく、確かにオタクってイギリスもスパイも大好きだもんねと素直に思い鑑賞しました。
  • 好きになれなかった点
    序盤から感じていた「ちょっと格好つけすぎかも」「やりすぎてて見てるこっちが照れくさいかも」という小さな違和感が後半に向けてどんどん増大していき、最後まで解消されなかった。ひとつひとつの要素を見ていけば好きなところはたくさんある(最初のランスロットがまっぷたつになるシーンとか)けれど、全体的な雰囲気に馴染めないまま話が終わってしまった。
編集S
映画ではなく小説の話ですが、最初に読んだときには面白さがわからなかった作品も、ある程度時間をおいて改めて読み直してみるとその良さがわかって大いに楽しめるようになることがあります。思うに、キングスマンもそういう類の映画かも。エージェントのコードネームは円卓の騎士に由来していて仕事着は紳士然としたスマートなオーダーメイドのスーツ、エージェントたち御用達の格式高い仕立て屋さんがアジトへの入口になっていて……とオタクの琴線に触れるどころか鷲掴みして揺さぶってくるようなコテコテの英国諜報機関ものを素直に受け入れてわくわくできるか、味付けが濃すぎておなかいっぱいになってしまうかがこの映画を楽しめるかどうかの分かれ目なんじゃないでしょうか。1周目ではしっくりこなくとも頭の片隅にはずっとあの威風堂々が残っていて、ふとした瞬間2度3度と繰り返し見返したくなるような、そんなタイトルかも……なんか二郎系のレビューみたいになってきたな。

ジョン・ウィック

  • 観たきっかけ
    知人に勧められて。知人は以前にも観たことがあり、自信をもっておすすめしてくれたので、その心意気に応えなくてはという思いで鑑賞。アクション映画は好きなジャンルだし世間的にも評価が高かったしキアヌ・リーブスは好きな俳優のひとりだしで、期待しながら観た。
  • 好きになれなかった点
    あまりにも厨二病すぎる!と一度思ってしまったが最後、その感覚を脱却することができずじまいだった。映画ではなくて自分自身に問題があるかも。インターネットではなろう系のテンプレ展開や台詞が揶揄されることがよくありますが、まさにその揶揄されるような類の台詞と展開の連続で照れてしまった。アクションはすごくよくて、アメリカのアクション映画というよりは香港映画のような雰囲気を感じました。
編集S
上述の本予告だけでも察せるかもしれませんが、キアヌ・リーブスを主人公にしたなろう系みたいな感じの映画なんですよね。伝説の殺し屋、裏社会へ舞い戻る!~引退して平穏に暮らしていましたが、全てを奪ったロシアンマフィアに復讐します~みたいな感じ。殺し屋稼業を引退して愛犬と暮らしていたジョン・ウィックに手を出して虎の尾を踏んでしまったのが、ロシアンマフィアのボスである父親の威光をかさにきて威張り散らしているバカ息子なのもかなりそれっぽい。つまりジョン・ウィックはむちゃくちゃ予算がかかっている高品質なろう系映画なのです(※個人の感想)。
予算がかかっているから主人公はキアヌ・リーブスだし、アクションも死ぬほどかっこいい。犬もすごくかわいい。ちゃんとつくられている映画だからこそ殺し屋もの・復讐ものとしてはかなりコテコテで要素ドカ盛りのストーリーでも映像と演出のパワーで説得力が生まれて、続編がたくさん制作されるくらいに愛されているんじゃないかなあ、と思っています。コンチネンタル・ホテルみたいなどの勢力にも与しない中立の組織に憧れたオタク絶対多いでしょ。ばれてますからね。

気になる要素があった系

扱っているテーマだったり、公式サイトなどで確認できるあらすじだったり、事前に得ている情報から気になる要素を見出して実際に鑑賞してみたところ、他の部分がしっくりこなくてそちらに引っかかってしまった、という話。あるよね、本筋と関係ないところが気になっちゃうこと……。

すずめの戸締まり

  • 観たきっかけ
    新海作品の「地方」の絵が好きだから。すずめの戸締まりは九州から東北を目指す話、とくれば九州・本州各地の描写を楽しめる!と思ったため。そこは期待以上だった。あと、ダイジンはかわいい。
  • 好きになれなかった点
    ラストにある、「監督が本作に込めたメッセージ」を表明するかのような長台詞。その台詞と、そこに至る長旅の経緯とが自分の中で結びつかず、脳内に波田◯区が現れて「お前の理解力不足ですから〜!残念!」と一刀両断された気分になった。

編集S
言われてみれば確かに新海誠ってしばしば田舎の高校生の話をしている気がする。日本の田舎らしい風景の描写が良くて、全然そんなところで暮らしたことないのに里心が刺激されますね。『すずめの戸締まり』は海面の描写が綺麗だったなあ。他の新海誠監督作品と同様に、作画の良さとRADWIMPSを全身で浴びるにはすごくいいアニメかも。
一方でこの「長台詞とそれまでのストーリーがあんまり結びつかない」という気持ちにも個人的にはかなり共感できて、東日本大震災が起きたあとの日本をモデルにしている=元ネタを地元で経験している立場で観ても!?だったのに実際経験していない人が観たときどれほど感情移入できるのか、いやむしろ経験していない方が頭のなかですずめナイズして構築できて没入しやすいのかも……など色々考えさせられました。いつか全部大丈夫になるからここで足踏みしないで前に進んでいい、なくしたものがあっても、諦めることに罪悪感があっても、というメッセージ自体は理解できるんだけど。あとダイジンが救われなさすぎて全然それどころじゃない。

自分の感性の確認系

世間では高く評価されているからこそ、ぴんとこない自分自身のことを信じられなくなってしまったという声も。私もタランティーノと気が合わないことを薄々感じながらもどうしても諦めきれずに色々観ています。未練がましい。

ドライブ・マイ・カー

  • 観たきっかけ
    同じ濱口竜介監督作『悪は存在しない』でピンとこなかったため、自分の感性を疑いにかかる意味でサブスクで視聴。
  • 好きになれなかった点
    とにかく長い。途中から作品そのものよりも劇中で扱われるチェーホフ『ワーニャ伯父さん』の原作が気になってしまい、結果的に流し見してしまった。村上春樹の原作未読ではあるが、氏の昔の他作品(『ねじまき鳥クロニクル』『風の歌を聴け』など)は面白く読めた記憶があるので、原作への抵抗ではなく、映画の構成テンポが合わなかったのだと思う。

なんだか全部面白そうな気がしてきたな

ウ編的「世間での評価は高いのに自分はあまり好きになれなかった映画」のお話、いかがだったでしょうか。もともとは自分が人気の映画ほど楽しく観られないことが多いのがコンプレックスで考えたテーマでしたが(根暗すぎる)、編集部メンバーから聞いた映画の感想をまとめたり自分の感想も書き添えたりするうちにだんだん全部面白そうな気がしてきました。あれ?

世間でよく聞かれる声と自分の意見が違うからといって、意見を変えたり誤魔化したりする必要はないと思っています。
でも、自分とは違う感想や解釈を聞いて「どうしてそう思ったのか」を改めて考えてみるのはすごく楽しいことかも。共感できるかもしれないし、相容れないままでも理解はできるかもしれない。そうすることでまた違う角度から観られるようになったら素敵ですよね。1本の映画で二度も三度も楽しめてとってもお得です。

なんだか企画倒れ感がありますが、この度の私利私欲映画回もとても楽しかったです!記事のためと言い訳して色々な映画を見直しながら書きました(そのせいでまたぎりぎりまで原稿を書いています)。読んでくださった皆様にも、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

次は「世間での評価は低いけど自分は大好きな映画」の特集もやりたいな!

制作協力:ウラロジ仙台編集部のみんな
執筆・まとめ:編集S