こんにちは。佐々木かいです。
皆さんは、仙台駅東口で映画を観たことはありますか?
2024年までBiVi仙台駅東口の2階に「チネ・ラヴィータ」という映画館がありました。近代的なシネマ・コンプレックスではなく、いわゆる「ミニシアター」と呼ばれる形態で、3つの小さなスクリーンで国内外の名作を上映していました。県内ではチネ・ラヴィータでしか観られない、という作品も多かったので、思い出のある方もたくさんおられるのではないでしょうか?
宮城大学中田研究室(事業構想学群・研究科 中田千彦教授)は2025年夏、BiViを運営する大和リース㈱と、チネ・ラヴィータの跡地を舞台にしたアートイベント「CINE FANTASMA」を開きました。コンセプトは「映画館の亡霊」。謎めいた響きに惹かれ、会場を取材しました。
【開催概要】
BiVi仙台駅東口 「CINE FANTASMA」
会期:2025年7月26日(土)~8月11日(月・祝)
場所:BiVi仙台駅東口2F(チネ・ラヴィータ跡地)、98
チネ・ラヴィータのテナント跡地を開放し、
企画・運営:宮城大学事業構想学群中田千彦研究室+大和リース
・公式Instagram:https://www.

BiVi仙台駅東口は、その名の通りJR仙台駅東口にそびえる商業施設です。飲食店やアミューズメント施設などが入り、若者を中心ににぎわっていますが、2026年春のリニューアルオープンに向け、8月から2〜4階を改装工事で休業しています。

2階以上が休館してからも、静まり返った2階でただ一つ、しばらく明かりを灯していたのが「CINE FANTASMA」の会場です。
チネ・ラヴィータが閉館して以来、閉ざされてきた自動ドアを開けると、かつての姿とは似ても似つかぬ空間が出迎えてくれました。

「CINE FANTASMA」は、失われた劇場の記憶と響きあうアート作品やインスタレーションを展示した企画です。宮城大学の卒業生を含む若手アーティストや現役学生の作品22点が、「閉館した映画館」という独特の空間に集いました。
出展アーティスト
・若手アーティスト(宮城大学卒業生を含む)
佐藤早苗、長谷川尚子、クロゴマデザイン、Chihiro Tanaka、Kaori Odashima、カメモト KAMEMOTO、AOAO DANIEL、石川貴士、大髙颯人、Keigo Takahashi、Naoki Yamashita、Kimam、笹井夢子
・宮城大学生
安住天希、渡辺陸太、佐藤和佳、髙階真央、小笠原叶乃、加藤唯花、佐々木葵菜、佐藤楓、早坂舞奈花、樅山鈴

ポスターやチラシで彩られていたエントランスから、明かりを頼りに、配管や床材などがむき出しになった工事現場を進んでいくと、表現手法にとらわれない作品たちが次々と姿を現します。


巨大な未完成の壁画もあれば、編み物のような物体、インスタレーション、そして映像作品まで。中には空間と完全に同化、擬態し、作品であることに気づかず通り過ぎてしまいそうなものもありました。
渡辺陸太さんと《Unseen Untill Seen》
こうした作品のひとつに《Unseen Untill Seen》があります。中田研究室・渡辺陸太さんが手掛けました。
建築を「仕切る」行為に問題意識を抱いてきた渡辺さん。「実際の建築で多用されているコンクリートなどの壁は、空間を強制しすぎている(強く仕切りすぎている)。かと言って、ガラス窓は向こう側との関係がダイレクトすぎてしまう」。
そこで、大きな黒い布に無数の穴を空けて吊り下げることで、空間を仕切ろうと試みたのが今回の作品です。見る角度によって穴から差し込む光の感じ方が変わり、ある地点に立つと、全ての穴から光を感じることができると言います。
「フィクションで、洞窟の奥から無数の目で見つめられてドキッとする場面がよくありますよね。見る・見られるの関係性が反転する感覚を体感してもらうことで、建物と人との関係性を考えてもらうことを目指しました」。
かつての映画館という、暗闇と光のコントラストが際立つ空間の特性にマッチした作品でもあります。

会場の中ほどまで進んでいくと、スタッフと同行しなければ足を踏み入れられない「禁断の領域」があります。その奥こそがまさに、かつてスクリーンだった場所です。スタッフの方に声を掛け、恐る恐る進んでいくと、映画館だった頃を彷彿とさせるスクリーンの光に照らされた一角にたどり着きました。
(手前の影は筆者です)
上映されていたのは、中田研究室・安住天希さんの手掛けた不思議な音と映像の世界「ゆれる残像」。
人々の声が異なるタイミングで姿を現し、ボリュームの変動を視覚的に追いながら音に囲まれるインスタレーションです。
最初に聞こえてくるのは、BiViの思い出について語る39人もの声。BIViの前で通行人に声を掛け、収録したそうです。さらに、仙台市内で収録した街の喧騒や浜辺に打ち寄せる波、駅のアナウンス、そして信号機の音などが断片的に再生され、鑑賞する人を取り囲んでいきます。
音声と映像の波が引いていき、やがて静寂に戻ると、頭の中に人々の声や仙台の「音風景」のかけらが残され、懐かしいような、寂しいような思いに駆られました。
安住天希さん
安住さんは「音声を実際の空間に流してみると、ヘッドホンで聞きながら制作していた時と全く違った印象を受け、自分でも不思議な感覚になりました」と感慨深く語ってくれました。
ちなみに、安住さん自身のBIViの思い出を尋ねると「子どもの頃『オシャレ魔女♡ラブandベリー』が大好きだったのですが、親によると、一番最初にカードを手に入れたのが、ここのゲームセンターだったみたいです」とのこと。チネ・ラヴィータの隣にあったゲームセンター「THE 3RD PLANET BiVi仙台店」も、7月末に閉店しました。
「映画館があったことは知らなかったんです。でも、今回の展示を通じて、映画館の存在を知ったり、思い出してくれたりしていただければうれしいですね」。

ー今回の企画はどのようにして生まれたのですか?
「BiViの改装にあたり、運営する大和リースから打診を受けたのがきっかけです。チネ・ラヴィータは、仙台の人々にとって、心の拠り所の一つでした。閉館し、文化・芸術の拠点を手放してしまったことは、都市にとって本当に惜しいことだったと思います。だからこそ、この場所が完全に生まれ変わる前に、アートの爪痕を残したかったのです」
ー学生だけでなく、たくさんのアーティストが作品を寄せていますね。
映画館跡という独特の空間で、面白いことにチャレンジしようという「アーティストマインド」で応えてくれました。学生の作品も、本来であれば卒業制作でも遜色ない完成度です。映画館があったことを知らなかった学生もいましたが、それでも、この空間に対してどのようなコミットメントができるか、一人ひとりが真剣に考えてくれました。
ー街中にアートを展開すること自体にも意義があったのではないでしょうか。
「仙台の人たちは今、大型店や老舗の閉店・休業が続いて、気落ちしている感じもありますよね。でも、誰かがどこかで行動しないと、空気を変える『事件』は起きませんよね。たとえ一個人であってもムーブメントは起こせるんだ、それぞれのやり方で行動できるんだと鼓舞していくことも、実学主義を掲げる宮城大学の役割だと思っています」

会期を終え、BIViの2〜4階は全面改装のため休業に入りました。2026年春には新たな空間に生まれ変わります。この場所にスクリーンが存在していたという記憶も、少しずつ薄れていくのかもしれません。それでも、どれだけ空間が刷新されたとしても、「場所」に息づく記憶は歴史として、残り続けていくのではないでしょうか。たとえそれが、亡霊と呼ばれるものだったとしても。
取材日:2025年7月26日(土)
取材・執筆:佐々木かい