堅物記者の無茶ぶりクエスト #4 【2023年の仙台で観測できるビル化石を調査せよ】

場所

チャレンジクリエイター名鑑No.2でご紹介した、フリーライター・佐々木かいさん。

真面目でお硬いイメージを払拭し、苦手としている主観的な発信に挑戦していきたい……!というかいさんのやっぱりどこか真面目な思いを受けまして、ウラロジ仙台では、かいさんへの無茶ぶり企画「無茶ぶりクエスト」の連載をスタートすることになりました。

無茶ぶりクエストとは
ウラロジ仙台編集部から課された若干無茶なお題・ミッションのクリアを目指し、その過程をコラムにして提出していただくという連載企画。佐々木かいさんの「苦手分野にも挑戦していきたい」という心意気を応援するものであって、決して彼が突然の無茶ぶりに右往左往する様を見て楽しみたいとかそういうことではありません。
S
前回は仙台市役所本庁舎の見学ツアーに参加してきていただいたわけですが、個人的に市役所本庁舎について気になっていることがありまして。本庁舎の壁に化石が埋まってるらしいんですよ。
恐山R
化石入ったままの建材で造られたビルって結構あるらしいですね、市内にも。数十年前から仙台市内ビル化石MAPなんてものもつくられてたみたい。
S
気軽にアクセスできる仙台市街地で……化石を見られるってこと!?

というわけで今回の無茶ぶりは……

前回のクエストでは、仙台市役所本庁舎建て替え前の見学ツアー(8月18日)に参加した時のことを書いた。

その原稿を編集部に提出した際、少し気になることがあった。

かい「できました!ご確認をお願いします!」
Sさん「ちなみに、ツアーで化石については触れていましたか?」
恐山「化石は?化石は?」

記事では特に触れなかったが、確かに、市役所本庁舎1階の壁には化石が埋まっているのだと、軽〜く説明を受けていた。大理石に二枚貝の化石が埋まっていたのを一応写真に撮ってはおいたのだが、あまりにも軽〜くだったので、記事ではスルーしたのだった。

あまりに軽〜くだったので、写真も微妙。

そう言えば、最近は都会で化石を探すのがちょっとしたブームなのだと聞いたことがある。化石掘りと言うと、山奥の渓谷に分け入って岩肌を叩き割るイメージが強いのだが、都会で行う化石探しは、普段何気なく通り過ぎているビルの壁材や床材などに目を凝らす。石灰岩などの堆積岩には何億、何千万年も前の貝やサンゴの死骸(化石)が豊富に含まれており、少し気をつけるだけで見つけられるものも多いのだという。1965年築の市役所本庁舎には、実はそれよりもはるか昔の世界の証人が眠っていたのである。うーむ、スルーすべきではなかったか。

そんなことなどすっかり忘れていた10月某日、市内のとあるカフェ・ベローチェの一角で無茶ぶられたのが今回のクエストである。なるほど、そう来たか。ウラロジ仙台編集部は本庁舎の化石を今回に向けた「布石」にしようと企んでいたらしい。なかなか油断のならない連中、いや、有能すぎてびっくりした。

(出典:『グラフせんだい No.29 仙台の化石散歩』仙台市市長室広報課, 1984年3月, 13-14p)

さて、今回の資料として見せてもらったのが、仙台の「化石マップ」である。1983年に当時の仙台市科学館で市民向けに配布されたものらしく、市中心部で「化石」を見ることができる商業施設やオフィスビルが図示されている。これを片手に街を歩けば、簡単に化石を見つけることができるというわけだ。ウラロジ仙台編集部、やさしい。

いや、そんなわけが無い。


あちらこちらで工事をしている仙台(2022年秋撮影)

マップが制作されたのは、もう40年も前のことである。仙台で言えば東北新幹線が開業した翌年で、街に流れていたであろうヒット曲は、柏原芳恵さんの『春なのに』、村下孝蔵さんの『初恋』、そして女川町が生んだスター、中村雅俊さんの『恋人も濡れる街角』など。時が移ろっても名曲たちは色褪せないが、街並みは大きく姿を変えている。
確かに市役所本庁舎をはじめ、2023年秋の時点で現役の建物もいくつか見られるのだが、それ以上に、建て替えや再開発などで姿を消したものが目立つ。また、建物は残っていても、近年大規模に改装された所、そして残念ながら中に入れなくなった所もある。

2023年の仙台で、化石は本当に見つかるのだろうか。
とりあえず私は化石を見つけられそうな服に着替え、市中心部へと向かった。

形から入るのも重要、かもしれない。

最初に向かったのは、化石マップで紹介されている建物の中でも、現役かつ最もメジャーと思われるスポット「藤崎本館」である。

建設されたのは1963年で、市役所本庁舎よりも2年先輩にあたる。近い年代に建てられたということ、そして百貨店という誰もが訪れることのできる場所ということで、最初の探索スポットに選んだ。化石とは関係ないが、個人的には壁面の波模様がとてもお気に入り。

青葉通り側の玄関にあるレリーフ。この壁の感じ、何となく化石が眠っていそうではないか。店員さんやお客さんの視線に怯えつつ探索を開始したが、それとはっきり分かるものは見当たらない。

別の壁も見てみたが、これはちょっと違う気がする。

さらに別の壁。これはどうだろう。何かには見えるが、よく分からない。

本館の三方をぐるぐる歩き、壁ばかりを凝視することおよそ10分。早くも目眩がしてきた。そもそも、私は化石に詳しくない。高校で「地学」の授業は取り、岩の名前や性質などはぼんやりと覚えているが、教科書に載っていた化石は「いかにも」という形をしており、実際に野外で「あいまいなもの」を見ても判別できるわけもないのである。藤崎本館では「化石かもしれない」シルエットこそいくつか見られたものの、私の乏しい化石リテラシーでは、「これは間違いなく貝でしょ!」といった確信に至ることはできなかった。

願わくば、きれいに渦を巻いたアンモナイトとかが出てきてほしい。だが、私も30歳を過ぎた。仕込みもお約束も無い現実世界で、そんなに上手いこと行くわけが無いことは最初から分かっている。「ティラノサウルスを見つけるぞー!」とか、ジョークだとしても言えない。そんな打ちひしがれし30過ぎの男が、それっぽい服を着て、白昼堂々、ビルの壁面を凝視しているのだ。多少の同情はあってもいいだろう。

早くも暗鬱とした気分で壁を見つめていると、ふと、幼少期の記憶が蘇ってきた。小さい頃、親に連れられて何らかのデパートに買い物に行った時、床の模様をたどって遊んでいて、化石を見つけて喜んでいたような気がするのだ。確か、星柄の模様が施されていた。藤崎では無い、どこかのデパート。仙台三越だっただろうか。いや、ビブレか、ams西武か、それとも十字屋か……ハハハ、もう10代の読者はついて来られまい!……と記憶を辿っていて、思い出した!そう!「141」だ!今は「仙台三越定禅寺通り館」となっているが、建物はそのままである。かつての141に行けば、容易く化石を見つけられるはずだ。


「141」の文字が写っている画像を持っていた。謎

さて、ターゲットを一応定めることはできたが、それだけではクエストの趣旨にそぐわないだろう。旧141を目指しながら、道中の「ありそうな」スポットをいくつか探索してみる。

はじめに、「電力ビル」を見てみる。
こちらも藤崎本館とともに、化石マップで紹介されている現役のビルの一つだ。
1960年に「東北最大のマンモスビル」として完成した、仙台有数の歴史を誇る複合ビルである。なお、「マンモスビル」とはそれだけ巨大だという当時の言い方であり、決してマンモスの化石が埋まっているからではないし、1階に入っているアウトドアショップのマークとも関係ない。ただ、こちらも市役所本庁舎と同じ1960年代のビルであり、化石発見の期待は高まる。電力ビル一帯は大規模な再開発が計画されているので、今のうちに化石を見つけておくことの意義も大きい。


エントランスの柱に何かありそう

結論から言うと、今回、電力ビルでは化石らしき存在を確認することはできなかった。1階や地下で壁や床を凝視したが、力及ばずに終わった。近年の大規模な改装により、壁や床を張り替えたのかもしれない。

なお、後日この記事を制作するために電力ビルのHPを見てみると、ビルの歴史を紹介するページに以下のような記述を見つけた。

7階エレベーターホールの壁面には、イタリア産の豪華な赤い大理石が使われ、その中にこぶし大の見事なアンモナイトの化石があって、これを見に訪れる人も少なくなかったほどです。

(出典:電力ビル「電力ビルの歴史」第一話 より)

ええっ、7階にアンモナイト!?……そうか、電力ホールか(不覚)。
あまりにも気になる。再開発が始まる前に、追加調査をしなければならない。

さて、化石探し当日に話を戻す。
次なるターゲットに選んだのは、同じ東二番丁通沿いにそびえる「仙台第一生命タワービルディング」、通称「タワービル」である。地下2階・地上21階の高層ビルで、1985年に完成した。化石マップの2年後なので、掲載はされていない。当時は仙台市内で最も高いビルだったという。ちなみに、タワービルの建設前、この場所には市民生活に欠かせない「とある施設」が建っていたらしい。気になる方はぜひ調べてみてね。

最初に目についたのは、ビルというよりも、通り側の公開空地に建つモニュメントだった。詳細はよく分からないが、「タワー」を意識したのかな、とは思う。

「へえ、こんなものがあったのか」と思ってよく見ると、何となく、化石の埋まっていそうな石材ではないか!この黒い部分は、何らかの化石ではないだろうか。だが、私の化石リテラシーでは確証を得られない。それでも見つけたものはある。

これは……オーストラリアの化石!?
(参考:外務省「オーストラリア連邦」

カンガルーに蹴り飛ばされそうな冗談もほどほどに、タワービルの中に入ってみる。正直あまり期待はしていなかったのだが、エントランスの壁面をひと目見て驚いた。

これは、地層だ!!

化石リテラシーの低い私にもさすがに分かる。この美しい縞模様は、大量の化石の存在を明示している。一気にテンションが上昇し、脳内にはジョン・ウィリアムズの手掛けた何らかの映画音楽が鳴り響く。てーてれってーーてーってれーー♪


何らかの貝①


何らかの貝②


何らかの貝③

さすが当時の仙台で最も高かったビルである。化石を含む地層の縞模様をあえてそのまま壁に用いることで、高級感を演出していたのだろう。素晴らしい。正直、壁を凝視するのは精神的にかなり「こたえる」のだが、タワービルでの「入れ食い」で一気に救われた。


テンションが上がりすぎて、最上階まで行ってみた。良い眺め。

さあ、勢いに乗って旧141ビル、現在の「仙台三越 定禅寺通り館」でも化石を見つけようではないか。幼い頃の記憶がいよいよ鮮明になってきた。流れ星をかたどったデザインの床の所々に、見てすぐにそれと分かる立派な化石があったはずである。あったのは確か1階や地下ではなく、吹き抜けのある上層階だ。一角には全国チェーンの書店も入っていたはずで、幼い私はそこに連れられていったのだろう。

だが、四半世紀以上前の思い出との再会に胸踊らせて訪れた仙台三越 定禅寺通り館の床は、「驚きの白さ」だった。星の模様も、化石も全く見当たらない。ショックのあまり、写真も撮れなかった。察してほしい。


仙台三越本館(ABビル)の床。ありそうだが、百貨店で長時間、床を凝視するのは……。

失意を引きずりながら、トータルでおよそ2時間、化石探しの旅を続けた。今回学んだこととしては、2時間も壁の模様を見比べ続けていると、目に入ってくる建物の壁や路面の全てに焦点が合い「とても疲れる」ということだった。壁の模様やデティールという情報は、ただでさえ情報量の多い街中では、普段「ノイズ」としてカットしていたのだな……と実感する。もしかすると、建材を扱う会社の人も同じような情報の取り方をしているのだろうか。
こうした街の見方というのは疲労もするのだが、改めて凝視してみると、普段全く意識していなかったビルの壁も、それぞれに材質や色が違う。数多くの選択肢の中から今、何気ない風景として私たちの前に現れているのだと思うと感慨深いものがある。

さて、宮城県庁やアエル、アジュール仙台等、いくつもの壁を凝視したが、「タワービル」以上にはっきりとした成果を見出すことはできなかった。だが、見る人が見ればもしかして、と思える壁にも出会えたので、写真のみ紹介しておく。


むすび丸殿よりも後ろの地層が気になる(宮城県庁)


黒い点は全てサンゴかもしれないが、全て違うかもしれない(七十七銀行新伝馬町支店)


植物のようにも見える(桜井薬局ビル)


いかにもありそうな見た目ゆえ、かえって無さそう(アエル)


丸い部分はアンモナイトかもしれない?(アジュール仙台)

今回は結果的に、化石マップよりも後に建てられたビルを中心に巡った。少ないサンプル数ではあるが、傾向としては1970年代から90年代に建てられた、不特定多数の人が出入りするビルが化石探しの「狙い目」では?という感触も得た。

この辺とか、狙い目な気がする。

後日知ったことだが、すでに現代版の「化石マップ」をオンラインでまとめてくださっている方もおられるようだ。

私のようにほとんどヤマカンで探すのもよし、事前情報をもとに効率よく探すもよし。ぜひ、(公共の迷惑にならない範囲で)「壁を見つめる街歩き」にトライしていただきたい。

ソロ化石探索、結構ハードっぽい

S
かいさんに言われてハッとしたけど、大の大人がひとりで、買い物するでも施設利用するでもなく壁や床を注視しながらビルをうろうろするって結構ハードだったかもしれない。自分に元々社会性がなさすぎて気が付かなかった。
恐山R
無敵の方?
無敵の方
そんなことより、実はすごい話になってきてるんですよ、このビル化石の一件が。

今回、仙台市街地のビルで「化石っぽいもの」を色々と探してきてくださったかいさん。
といっても、かいさんも我々ウ編も化石についてはずぶの素人です。本当に化石なのか、化石だとして一体どんな生き物の化石なのか……我々の力だけでは判断が難しく困っていたところ、なんとその道の専門家の方にお話を伺えることになりました。

そんなわけで、仙台市役所本庁舎からはじまった化石つながりクエストはもうちょっとだけ続きます。
次回も乞うご期待!お出掛けの際にはぜひ、周囲の壁や床をちらちら確認しながらお待ちください。

 

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著者紹介

佐々木かい(ささき・かい)

フリーの聞き手・書き手。1990(平成2)年、仙台市生まれ。地方新聞社の記者、社会福祉法人の広報職などを経て現職。主に地元企業の人材採用や情報発信のお手伝いなどに面白さを感じています。【急募】仕事と同じくらい楽しいこと【服装自由】

執筆:佐々木かい
編集:S