シンポジウムに行ってみよう
らむねさんから教えて貰ったのは仙台市文化芸術推進基本計画策定に向けた「文化コンテンツが創り出すまちの賑わい」というシンポジウムで、場所はせんだいメディアテークとのこと。
※詳細はこちらからhttps://www.city.sendai.jp/bunkashinko/documents/04_symposiumflyer.pdf
シンポジウム当日
※記事内に掲載している写真は全てシンポジウム「文化コンテンツが創り出すまちの賑わい」にてライター・花が許可を得て撮影したものです。
オープニングアクトはパフォーマンス集団「白A」が担当されました。
「白A」
2002年10月に宮城県広瀬高等学校の同級生を中心に仙台で結成。
これまでに31ヵ国で500公演以上を行い10万人以上のオーディエンスを動員。
アメリカの国民的オーディション番組「アメリカズ・ゴット・タレント」でアジア人初のゴールデンブザー賞を獲得。
岡本健准教授による基調公演
最初の登壇者は、近畿大学 准教授 総合社会学部/情報学研究所の岡本健准教授(以下岡本氏)。
岡本健准教授
コンテンツツーリズム、VTuber、ゲーム文化、またゾンビなどを研究対象にされており、VTuberとして「ゾンビ先生の『YouTubeゾンビ大学』」を運営されています。
▼「ゾンビ先生の『YouTubeゾンビ大学』」チャンネル
「メディア・コンテンツで人が動く、文化観光のいま・これから〜アニメ、マンガ、ゲーム、アート、VTuber 等コンテンツが創る“つながり”~」と題した基調講演は、5つの話題で構成されていました。
①ゾンビとイベントではゾンビを地域イベントにした広島の横川という地域の「横川ゾンビナイト」を例に挙げて「地域にあるものを宝を探して磨く“観光振興”も大事だけれど、地域にないものを活用しても継続していけばコンテンツになりうる」と説明。
中央が岡本氏。「横川ゾンビナイト」での光景を紹介していました。
②アニメと観光はアニメの「聖地巡礼」がキーワード。
岡本氏が勤務する近畿大学の門。アニメ『Free!』のキャラクターが通う大学のモデルになっているそうです。
岡本氏:何の変哲もない風景も、アニメの舞台になるとそこが急に価値を持ちコンテンツ化される。
アニメの聖地巡礼においては観光客が来ることも大事だけれど、アニメそのものが地域の背景のアーカイブになる。
この「アーカイブ」っていうのが実はものすごく大事です。「アーカイブ」そのものがすぐにお金を生むことではないですが、これをやっておくことによって非常にその後の文化的厚みが増えます。
③ゲームと大学・図書館
「最近、大学は“地域に開かれた大学”にするということも1つのミッションになっている」と話す岡本氏。
近畿大学ではコンテンツを活用して図書館の本と利用者のつながりを作ろうという試みが実施されているようで、ゲーム好きなスタッフの方が「マジック・ザ・ギャザリング」というカードゲームを基にした「ブック・ザ・ギャザリング」 というゲームを企画。
近畿大学で開催された「ブック・ザ・ギャザリング」の様子。
▼「ブック・ザ・ギャザリング」 紹介動画
岡本氏:とにかく本棚の目の前に立ってもらって、本を手に取って読むと。そこまで行ってもらわないといけないってことでやってます。
この実例から何を皆さんにお伝えしたいかっていうと、その古い文化資源とか、この場合、本ですね。その古い文化資源という既にあるものと新しいコンテンツっていうのは敵同士じゃないっていうことなんです
④VTuberとテーマパーク
ここではVTuberの周央 サンゴさんが「志摩スペイン村」を紹介したことがどう影響したかを説明しました。
▼周央 サンゴさんによる「志摩スペイン村」紹介動画
岡本氏:サンゴさんのコラボが注目されることによって、本当に見せたい 『志摩スペイン村』の1番核の部分までお客さんが増えた。狙うのはここです。コンテンツをきっかけに、周辺のものとの繋がりを作ることが重要です。
⑤コンテンツツーリズムとは?
岡本氏:コンテンツは、アニメ、漫画、ゲーム等々には全く限りません。なんでもコンテンツにできます。これまでは「現実空間、情報空間、虚構空間」っていう感じで、現実空間上を利用するのが観光だっていう風に思われてたんですけど、今はネット上の情報空間とか、 物語の世界の虚構空間っていうのもすごく大事で。今の話をちょっと整理するとこういう図になります。
岡本氏による説明図
岡本氏:この3つのアクセスっていうことからコンテンツも考えるとすごくわかりやすくて、 物理的にその場所に行くっていうのが、「物理的移動」 で「情報的移動」っていうのは、その場所とか物とかについて知るという知識の話です。これは行かなくてもできます。けれども、何にも知らない状態で知りたいなと思うことはほぼないです。
この2つを、実は日本の観光っていうのはずっとやってきたんですよ。情報を発信しなきゃいけない。だからウェブページや観光商品を作る。けれど今注視すべきは「精神的移動」なんです。
コンテンツは人によって何が面白いかが違う。いろんな人がいるからコンテンツが多様化してるんです。そこにどうやって刺さるように情報を入れて精神的な近さっていうものを醸成させて、物理的アクセスに繋げるのか、という話になるわけです。
本田佑行さんによる基調公演
二人目の登壇者は株式会社集英社「週刊少年ジャンプ」副編集長の本田佑行さん(以下本田氏)。
本田氏は仙台市出身。主な立ち上げ作品に『ハイキュー!!』をはじめ『暗殺教室』『Dr.STONE』『アンデッドアンラック』などがあります。
▼ジャンプ+『ハイキュー!!』掲載ページ
「つながる!マンガと現実世界」というテーマで基調講演が始まります。
本田氏:僕が仙台に縁があり、バレーボール漫画の『ハイキュー!!』というコンテンツとしての広がりがある作品を立ち上げたという理由で、今回のお話をいただきました。
「文化コンテンツが創り出すまちの賑わい」ということなんで、そのテーマを念頭に置きつつ、あくまで僕は「漫画編集者」という立場から見た「場所にまつわるコンテンツの面白さ」を簡単にお話させていただきます。
『ハイキュー!!』が出来るまで
本田氏:『ハイキュー!!』の舞台が何故仙台なのかというと、この作品を作る当時、作者の古舘春一先生が仙台に住んでいらしたということと、先ほどご紹介した通り、僕も仙台出身なので、打ち合わせしていく中で「舞台が都内じゃない方がいい」という話になったことがきっかけです。
全国大会がある物語なので、そこにやっと行くんだ!っていう喜びを描くときに、都内で山手線で行く描写では、ちょっと盛り上がりに欠けてしまう。なので新幹線で全国大会に行くような地域を舞台にしよう、と。
みんなに共感が得やすい、ある程度東京から離れた都市っていうところをピックアップしていく中で、やはり僕らの中で1番馴染みがあって、そしてバレーボールも盛んな仙台が良いだろうということで、仙台を舞台にした経緯があります。
仙台を舞台にすることでリアリティが増していく
本田氏:この仙台を舞台にしたことでですね、作品にどんどんリアリティが加えられていくわけです。
「カメイアリーナ仙台」(※仙台市体育館。『ハイキュー!!』で登場する)という体育館を、外観だけじゃなく中も取材を重ねまして、実際の風景として作中にも出させていただいております。
例えば、初めて主人公・日向がライバル・影山と会うシーンや、主人公たちが試合に負けて一生懸命頑張ろうって言って立ち上がるシーンの場所がこのカメイアリーナ仙台の風景っていうのがたくさん出てくるんですね。この風景のリアリティが作品に「本当らしさ」みたいなものを足していき、作品をより魅力的なものにしていったと思っております。
さらに「本当らしさ」をこの作品に感じたお客様が、さらなる「本当らしさ」の体験を求めてカメイアリーナ仙台に訪れるっていう人もたくさんいるんです。
これが先程の岡本先生のお話にもありました漫画、アニメの「聖地巡礼」の形になってくるんだと思います。
『ハイキュー!!』&仙台愛
本田氏:僕、本当に『ハイキュー!!』という作品が大好きでして。
今は東京に住んでまして、たまに仙台に帰ってくるんですけれども、仙台駅前で歩いてると、もしかしたら今ここで月島とか山口(※『ハイキュー!!』の登場人物。どちらも最終章で宮城県内で就職していることが描かれている)とすれ違ったかもしれない、と本当に存在するかの様に思うんですよ。
主人公の日向や影山は今、選手として海外でプレーしてることになってるんですが、もしかしたら年末は帰ってきて仲間たちと国分町で飲んでるのかもしれないな、とか街全体にやっぱり作品の息遣いみたいなものを感じて、ものすごく感動するんですね。
帰ってくるたびに、やっぱり仙台っていうのは本当にいい街だな、大好きだなって思えるんです。
パネルディスカッション
最後は岡本氏と本田氏、そして「白A」ディレクター・菱沼勇二氏の三名によるパネルディスカッションが行われました。
「白A」ディレクター・菱沼勇二氏紹介
パフォーマンスを中心にイベント、映像作品など、幅広い領域でのディレクションを得意としており、2020年より「白A」結成の地である仙台を拠点に、訪日観光客向けエンターテインメントのクリエイションを積極的に行う。
岡本氏:ここからはモデレーターとして、お二人に色々お話をさせていただきたいなと思います。
仙台ならではの文化コンテンツを活かしたまちの賑わいと、いま、どんな可能性があるのか、 どういうことできるかなみたいな話をね、皆さんと一緒に考えていきたいなという風に思います。
仙台で観光者向けのライブエンタメをつくる
岡本氏:菱沼さんは今は仙台にお住まいですよね。どうして、仙台に拠点を移そうと思われたんですか。
菱沼氏:「白A」として世界中で活動していた時に「観光向けのライブエンタメがどこの国にもあるけど日本には無い」という気付きがあったんです。訪日観光客も盛り上がってたしブロードウェイやラスベガス的な 、観光のお客さんがふらっとくるライブエンタメを日本に作らないとってメンバーと一致団結したんです。
日本の東京オリンピック目がけて観光コンテンツのライブエンタメを作るという理由で海外から日本にシフトし、1年半ぐらい、新宿と横浜では訪日観光客向けのライブエンタメをしていたんです。
オリンピックに向けてお客さんも増えてたんですけれども、コロナの影響で、強制終了となりました。リモートワーク等の働き方の変化もあり、東京一極集中の時代が終わって人や会社などが地方に散った時期なんです。
訪日観光客って何が目的で日本へ観光に来るかというと、1位が和食、2位が自然景観、3位が歴史文化ってあるんですけれども、 自然景観と歴史文化をフックに仙台で観光者向けのライブエンタメをやったら超面白いじゃん、と思って東京と横浜の劇場閉めて、地元仙台で観光盛り上げようぜって気持ちで来ました。
コンテンツを通じて学ぶ
岡本氏:僕自身がいろんな事例を見てきて思うのが「ためになるコンテンツは受けない」っていう問題があって。たとえば昔、「マンガで歴史を学ぶ」みたいな本がありましたよね。あれはあれで良いとは思うんですが、過度に教育に偏りすぎちゃってるものって形式だけマンガで、マンガの面白さが抜けちゃってると感じることがあります。それより漫画家の横山光輝先生が描かれた『三国志』の方が面白いし頭に入ってくるぞ、という。今の例と同じく「コンテンツツーリズム」でも同じように「仙台をPRしましょう」って言って始まった企画が上手く人に刺さらずコケてしまう問題があると思うんですけど、漫画を作られる立場からすると、どう考えられてますか?
本田氏:今、僕は学習漫画を作っておりまして、岡本さんがおっしゃったような「 勉強するためのもの」ではなく、情報の中から面白さを見つけ出して「ここが面白いぞ」っていうものを、僕たち編集者が強固に1つ見つけて、ちゃんとお客さんに面白さを伝えていくプロセスを経ないといけないとすごく感じます。
そういう意味ではまず「仙台をアピールしよう」より「仙台の面白いところ、一番ワクワクするところをまずみんなで一緒に探そう」っていうスタンスでそのワクワクをどうやって伝えていこうか考えてくのが先だと良い、と編集者の立場としては思いますね。
岡本氏:やっぱり単に情報としてではなく「ここが面白い、ワクワクする、自分はいいと思う」っていうのがベースになってるっていうのが、他の人に学びの共感としても与える影響は強そうですね。菱沼さんは今の話を聞いてどう思われましたか。
菱沼氏:実は今日観ていただいた「伊達ロマネスク」というショーは、実際の演目では30分あって伊達政宗の生涯が学べるっていうのが裏テーマなんですよ。
まず入口はエンタメでアトラクション型のショー舞台で「忍者だぞ。すごいぞ」っていうとこをみせて、見終わった後にはしっかり「伊達政宗ってこういう人だったんだ」と知ってもらう流れにすることで伊達政宗が好きになったり、その後、仙台城跡に行ってもらう設計があります。まさに本田さんがおっしゃってた「ワクワクをどうやって伝えるか」と通じるところがありますね。
仙台に期待すること
岡本氏:最後に仙台に対してのメッセージを一言ずついただいてよろしいでしょうか。
菱沼氏:「白A」は2020年にこの活動拠点を仙台に戻しました。自分たちが今まで培ってきたものを活かして仙台で何か残して作りたいって、今すごく思っています。
仙台うみの杜水族館では震災から10年以上経ち「もう一度海を愛して欲しい」という思いで「SEATOPIA」というショーを3年(2023年11月時点)行っています。そして、青葉山エリアは観光資源がいっぱいあるんですけども、ここに仙台の夜の観光地を作り、観光客が増えて盛り上がるようなエンターテインメントにしていきたいと思います。仙台の東エリアと西エリア、 海と山それぞれの場所で仙台の観光を盛り上げていきたい所存ですので今後とも「白A」をよろしくお願いします。
本田氏:『ハイキュー!!』の漫画は連載が終わっているんですけれども、劇場版アニメが2024年2月に映画化されます。この先も、長い時間をかけて続いていくコンテンツかと思います。メディア化すると出版社的に儲かるとか、そういうのじゃなくて、やっぱり楽しいんですよね。
仙台という地域も同じように楽しめるポテンシャルがまだまだあって、それが1つ1つ増えていった時に、きっともっと面白いことができるんじゃないのでしょうか。
それを実現していくにはやっぱり行政の皆様と街の皆様のお力がないとできないことですので、今回のシンポジウムをきっかけにしてまた文化コンテンツからまちの賑わいを創っていくために、皆で力を合わせていけたら良いなと思います。
シンポジウムに参加してみて
全体を通して「コンテンツ」というテーマでお話を伺いましたが、御三方それぞれの考えや視点、想いというのがあり、その根底の部分では共通する部分が大きいということに気付きました。
そしてWebメディアに関わる身としても共感を覚えることがあり、今回のパネルディスカッションで話題になった「ワクワクすることを見つけ、伝える」「仙台のポテンシャルに可能性を見出す」ということについて自分の中でより深く掘り下げていき今後の取材や記事作りに活かしていきたいです。
取材日:2023年11月26日
取材・撮影・執筆:花