【インタビュー】やりたくないこと、絶対やりたい!「一番乗り」の猛者・東北大学 動く会

ずっとずっと夢中になれる!魅惑のサークルたち

「あいつら全員、同好会!」は、宮城・仙台で活躍するおもしろ同好会・サークルの活動内容やその起こり、裏話などをインタビュー記事として特集していくコーナーです。

同好会・サークル活動は仕事や学校の授業ではないからこそ、バカみたいに夢中になってしまう魅力が隠れているはず。面白くて、しょうもなくて、とっても愛おしい……そんな活動を続ける人々をご紹介していきます。

今回、ウラロジ仙台でインタビューしたのは東北大学 「動く会」

動く会とは、東北大学の(一応)文化系サークルである。「何でもやってみよう」という精神に基づき活動しているらしいが、部外の人間でその全容を知る者は少ない。

引用:https://www.tba.org.tohoku.ac.jp/wiki/wiki.cgi?page=%C6%B0%A4%AF%B2%F1

読者の皆さんの中にも動く会といえば「新しい商業施設のオープンなどに一番乗り」「鬼仏表を作ってる」「やりたい放題」みたいなイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。

2023年にはウラロジ仙台主催のマーケットイベント「地下道-3150」にも部誌の展示となんでも屋さん枠で出店(※ただし一番乗りはしていない)

 

でも、最近は何をやっているのか知ってますか?

インタビューでは会長の佐々木さんを中心に、部員の小松さん、池ノ上さん、隼さん。それぞれ立て看同好会や戦史研究会、アイマス研究会など兼部している風変わりアクティブなメンバーたちがお話してくれます。

動く会は普段何しているのか、どうしてそんなことやっているのか。「一見社会の役に立たない無意味なことをやろうとしてるけど、無意味ってなんだろう」といった哲学じみた部分まで含めてお聞きしました。

 

それでは、お邪魔します。

 

▲おもむろにパスタを茹でて食べ始めた会長・佐々木さん

 

ーいきなりパスタ食いはじめてる。

佐々木:はい、今日はフランクに、ご飯でも食べながらおしゃべりする感じでお話できるといいかなーって思って。うん、あとは勝利のために……(モグモグ)。よろしくお願いします!

ーなぜ佐々木会長がおもむろにパスタを食べ始めたかは後述するとして。よろしく頼みますよ。さて、動く会は「やりたいことをやる」をモットーとしたサークルで、一番乗りとかドカ食いとか、ユニークな企画を記録しながら楽しんでいますよね。設立はかなり前と聞いていましたが、いつ頃なんでしょうか。

佐々木:設立は1972年6月です。<今の時代は悩みが多いから、動くことで考えていく悩みを解決するためにとりあえずなんでもやってみよう>というコンセプトから始まったと新聞記事に書いてあったはず。というのも、80年代くらいまでは動く会の部員が河北新報でコラム書いて、原稿料を部費に充てていたような時期があったみたいなんです。その頃はかなり地域に密着していたんだなと。

▲先輩たちが「なんでもやってみた」ことを記録していた部誌。企画ごとに大学ノートに記録するこのスタイルは現在も受け継がれている。

佐々木:多分、この50年を通して<悩みを解決>みたいな要素は結構薄れてはきているものの、またある意味復活しつつあるとは思います。「動く会の企画って他のどんなことよりも苦しくねーか?」って企画参加者が口々に言うし、そういう意味では悩みを解決しているのかなと。

動く会 最近の活動記録

パスタ15kg消費対決

3人ずつのチームに分かれ、パスタ30kg消費をなるべく早く目指す地獄のような企画。一歩間違えれば血糖値上昇による気絶不可避。会長の佐々木さんがバイト中にパスタを食べすぎて気絶しかけた経験から「これだ」と思いついたことから始まったそう。2024年5月13日からスタートし、5月21日に終結(取材日は5月16日)。冒頭で佐々木さんがパスタをモグモグしていたのはこのためです。

ちなみに食べ方のバリエーションは定番のカルボナーラ他、ラーメン風やもやしを絡めたパスタ「高槻スペシャル」など※アイドルマスター 高槻やよい もやし で検索

佐々木:朝が嬉しくてェ……(生を実感するため)朝を迎えられると嬉しくてェ……

小松:今、いわゆる飽食の時代だからこそ、この食べることの苦しみを知って、いろんな食べ物を食べられるっていうのはすごくありがたいんじゃないかって。

※読者の皆さん、ドカ食い気絶部(通称・ド気部)は危険です、安易に真似しないでください。また、部員のみんなも若いからと言って無茶しすぎないように。

仙台から岩手県平泉町・中尊寺まで歩こう

仙台から平泉まで、およそ100kmの距離を自分の足を使って歩いていく。シンプルながら、これまた狂った企画。新入生もちゃんとついてきたとか。狂人(くるんちゅ)だ……。

佐々木:この時、自分だけ栗原市の……狩野英孝さんのご実家で有名な櫻田山神社を経由するルートを選びました。国道を外れてきつめの県境のあたりを通るんですけど、やっぱ熊や野犬がいるかもしれない、気を抜いたら自分はここで死ぬのかもしれないみたいな恐怖を感じるんですね。死の恐怖を隣に置いておくことで、人間の生に対して謙虚になれる。

ーそ、そうなのか。

佐々木:ちょっと謙虚になりつつ、いろんなことができる、 恐怖を感じることにも挑戦していけるって、人間的成長の面ではいいことだと思っています。

「あんなん二度とやりたくねえ」と思えることをやる

佐々木:自分、企画を打つ時には絶対やりたくない企画を打つんですよ。やり終わった後に、やってよかったんじゃなくて、「あんなん二度とやりたくねえ」と思えるやつ。

活動のコンセプトとしてはやりたいことをやるとか、なんでもやってみようって感じなんですけど、普通に生きててやろうと思わないことを、やりたいって頭で無理やり誤認させてやってるみたいなところがあるんです。

ーちょっと怖くなってきたな。

佐々木:たとえば、この間のあれ(仙台→平泉異常徒歩)。100km歩ききった次の日から、これまでしんどいって思ってたことがしんどくなくなってくるんですよ。なんの利益にもならなくて、ただ疲れるだけで、わけわかんないことやって死にそうになったのに、なんで俺は前まで⚪︎⚪︎程度のことがしんどかったんだろうって。嫌で嫌でたまらないけど、なんかそれをやりきった時に、気がついたら 人間として成長しているみたいな。

ー確かに、X(Twitter)で歩く企画(仙台→平泉異常徒歩)の様子のポストを見かけてから「あー、動く会が歩いた距離に比べたらこんなこと苦しくもないよな」とかは思うようにはなりました。波及効果?

佐々木:嫌な企画を通して、自分の一本筋になるような考え方を強化・構築していって、最終的にある程度形にして世に出していくみたいな……動く会はそういうサークルなのかなと。

ー嫌なことね……私も動く会の部誌フォーマットをリスペクトして一日禁煙したら発狂したって記事を書いたことがあるんですけど、「生々しすぎて怖い」「ネタとして笑っていいのかわからない」というコメントも寄せられまして。

佐々木:あ、なんとなく分かるかもしれません。昔の先輩たちが残した部誌を読んでて、「この人何言ってるかわかんないし、めっちゃ怖いぞ」って思うときが絶対あるんです。本気でやってると、思考がむき出しになるというか。

でも、なんか惹きつけられちゃうんですよね。こんな怖いことをやってるのに、この人たちは一心でそれをやっている。なんかめっちゃロックンロールじゃないですか。

苦行は邦ロックとアイマスを聴いて乗り越える!?企画で生まれる連帯感の先にあるもの

佐々木:ロックといえば……やっぱ苦行ばっかりやってると辛くなってくるんで、音楽で気を紛らわしながら企画を遂行するのが代々続いているのも特徴のひとつかもしれません。過去の部誌にも先輩たちが聴いていた曲の歌詞やタイトルが書かれてることが多いんですよ。

The Pillows、THEE MICHELLE GUN ELEPHANT、BLANKEY JET CITYとか……。80〜90年代の邦ロックが多いですね。

ーTHE PREDATORSではなくThe Pillows。The BirthdayではなくTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTを聴く。

佐々木:そうなんです。それも、ミッシェル後期の……チバユウスケがしんどい感じの歌詞を書くようになってからの曲を「この時はこれ聞いてた」と残している先輩が多くて。 

それに、聴く音楽や趣味も部員同士みんな似通ってくるんです。バンドだけじゃなくて、THE IDOLM@STERシリーズ(以下・アイマス)とかもそう。一番しんどい時にそこらへんの音楽に絶対たどり着いてて、元気を貰う。なかなか不思議な話だなって。

ー宗教か何か?

隼:アイドル=偶像崇拝みたいなもんなので、ある意味アイマスは宗教ですけどね。

ーなんなんでしょう。元々その辺のサウンドとか、アイマス好きな人が動く会の感じにハマったとかではないんだ。

佐々木:最初は色々バラバラな趣味を持った人がサークルに集まってきて、企画をやりつつ、部室でのおしゃべりなんかを通してみんなお互いの趣味とか、好きな音楽とかを共有するんです。それがある程度の範囲で収束して、またそこから広がって行くような感じ。

企画を通して連帯感が生まれるのか、「あの企画をやり遂げたあいつがおすすめしているんなら聴いてみるわ」って妙な信頼感があって趣味も共有されやすいんじゃないかな。なので、その両輪なんですよ。

小松:大学で一般的なサークルって特定の趣味を持った人が集まって、何かしら共通のことに打ち込むパターンが多いですよね。でも動く会は生まれも趣味も全然違う人たちが集まって、企画を打って……苦悩しながら成長していく。ここは他のサークルと全然違うところですね。

ウラロジ仙台と「立て看」「動く会」意外な共通点

池ノ上:ところで、なんでウラロジ仙台の皆さんは立て看同好会や動く会のこと気にかけて、大学祭でも顔を出してくれたり、こうやって関わり続けてくれたりしているのかなっていうのを不思議に思ってたんです。まず、思い返してみると2023年の地下道-3150で、恐山さん土下座してましたよね

※ウラロジ仙台が2022〜2023年に主催したイベント「地下道-3150」にて、動く会のブースに来ていた方に軽いノリで話かけた恐山編集長。実はその方が本イベント開催にあたって活用した仙台市の負担金制度「ユースチャレンジ!コラボプロジェクト」担当課の職員さんだと発覚し、ヒュッとなったため、土下座を押し付けるに至ったのだった。

ーその通りです……。

池ノ上:大の大人が冗談でも土下座を人に押し付けている。 これがまず1つ、すごく思い出深いんですけど、<ウラロジ仙台が僕らのところに来てくれている謎>への答え合わせに近づいていた出来事でもあって。

そして、確信を得られる出来事も起こったんです。先日、ウラロジ仙台主催のオフ会「ウラロ人狼」に参加した時、編集部メンバーの……トータルの感じを見たのが、完全な答え合わせになった瞬間だったんですよね。

 

「似てるんだ」って。

 

 

ー属性っていうか、空気感みたいなところ。

佐々木:学生か、社会人かの違いくらいなんじゃないですかね。

ーいうても、みんなは世間から見たら「学生さんらしくていいね」だけど私たちはモラトリアム人間みたいなもんですからね……そういえば、佐々木くんと池ノ上くんは立て看同好会(以下・タテカン)も兼部しているものね。

佐々木:ウラロジ仙台のことは、タテカンで取材を受けることになった時に知って。タテカンのことを純粋に面白い!っていう理由で取材しにくるなんて、どんなメディアなんだろう。なんだそりゃって思いましたよ。

ーそうですよね。他のメディアであれば、学生運動や、京都大学のタテカン訴訟のような話題なんかと絡めて「じゃあ東北で同じような活動をする学生はどう思ってるのか」みたいなジャーナリズム的アプローチになると思います。うちは、ただ面白いもの作っている子たちがいるなってことで取材をお願いしました。

池ノ上:いや、もうありがたいですよね。東北大学の立て看同好会は面白いものを作って置くっていうのが基本なので。なんか、そこをそのまま見に来てくれたっていうのは嬉しいことですしね。見に来る人がいるんだ……っていうこと自体が嬉しい。

佐々木:やっぱ見てもらえると嬉しいですから。

本当に「無意味」な領域へ到達するには?

ーさて、ウラロジ仙台との意外な共通点みたいな話をしたところで、動く会の話に戻りますか。

佐々木:動く会の活動を通して鍛えられることは4つぐらいあると思ってて、フットワークの軽さと、 企画を考える時とかに使われるその思考の幅やコミュニケーション力、 企画を実行まで持っていくための主体性。

こんな社会に役に立たないようなことばっかりしているサークルで、自分たちは社会から離れようとしてるのに、社会で必要って言われてるものが普通のアプローチと全く違う方向から身についちゃう。自分としてはそれ身につくのめっちゃ悔しいんですけど。

ー逸脱しようとしているのに社会に近づいちゃってる。一見なんの役にも立たなさそうなことが結果的に社会の役に立ってしまって悔しいというのはなんか、やっぱりウラロジ仙台とも似たようなところがありますね。

佐々木:でも、その奥深くにまだ何かが残ってるはずなんです。ね、池ノ上。

池ノ上:え、俺?そうだな、意味のないものに意味を見出すって、もう人間の本能なんだよなっていうのは感じています。


▲5限が始まるまで話してくれた池ノ上さん(右)、時たまツッコミを入れてくれた隼さん(左)

5年前あんなことあったけど、今思えばあれのおかげで今強くなれたなとか、なんてことないことだけど楽しかったなとか。経済的価値に照らし合わせると意味がなさそうってだけで、思い出になった瞬間、意味を見出すことからは逃げられないんですよ。

佐々木:人生の豊かさって主体性とかで評価できちゃうから、それをやっちゃう時点で意味がある。無意味なことって、本当は何もしないでねって話なんだよな。

池ノ上:本当に無意味にしたかったら、記憶を消すしかない。

佐々木:記憶消す装置、作るか。1企画やるごとに記憶は消えていくんだけど、部誌には記録として、肉体には不要の記憶として刻まれてる。動く会が無根拠という意味でアナーキーな活動をしていきたいのであれば、記憶を消す。医学部の人とかを捕まえてきて、記憶消す装置を作らせる。

ー医学部の皆さん、逃げてください。

佐々木:本当の無意味を目指すのであれば、そうなっちゃう。無意味なことをしてる僕たちですら、 意味を見出すことからは逃げられないっていう。だから、その矛盾を抱えたまま何か活動してるのが動く会。

ーちょっと哲学っぽくなってきたな。では、最後に今後やってみたいこととかあれば教えてください。

佐々木:仙台の人にとって動く会は「一番乗り」の記憶が新しいはず。僕らの代だと「ヨドバシビルのオープン一番乗り」チャレンジもやり切りました。仙台市は再開発の流れで新しい商業施設とかもできるみたいだし、そのへんのオープン一番乗りを全部動く会で取りに行きたい。仙台市市民に動く会という一番乗りの猛者がいることを今一度知らしめる

あといろんな人たちと、コラボしたい。「⚪︎⚪︎好きあつまれ」みたいな、趣味テーマの座談会とかあったら参加したいし。

池ノ上:大学外の人も巻き込むのはいいよね。先ほど話した「ウラロ人狼」では他の大学の人とか、普段出会えない人たちとも話せて、すごく面白かったですし。

佐々木:あとはまた、地下道-3150が開催されるなら季刊誌も出してみたいです。いっぱいやりたいことがあるし、違う世代の人と話してみたい。そしたら、「東北大学」が外れて、もっと自由な「動く会」になれるはず。いろんな人といろんなことができたら楽しいだろうなって思ってます!

ねぇルーシー教えてよ 「パスタ」どうなったのか

★そしてなんとこの特集、後編があります。動く会の直近の企画「パスタ15kg消費対決」の部誌をウラロジ仙台のサイト上で読めるようにしちゃいます。

2024年8月16日(金)後編を更新しました

取材日:2024年5月16日
取材・執筆:恐山R