レズバーで勤務していると
レズバーで勤務していると、お客様から「いつからレズなんですか?」と聞かれることが度々ある。
恐らく母親の子宮にいた頃からレズだった。
掴まり立ちが出来る年齢になると共に脱走癖が身に付き、団地の上の階のおばさんの家に上がり込んでは膝の上であやしてもらっていた。
初恋は同じ幼稚園のほのかちゃんという脚の早い女の子だった。
徒競走では常に私とトップを争い、運動会ではお互いに火花を飛ばしあっていた。
ショートカットがよく似合う利発な女の子だった。ほのかちゃんは最終的に私の幼なじみのこうきくんに惚れ、そのこうきくんは私に惚れ、私はほのかちゃんに懸想をするという昼ドラも真っ青の魔の三角関係を生み出した挙げ句に失恋した。
小学校では同じクラスのさちかちゃんに淡い恋心を抱いていた。
ギャル予備軍といった感じの底抜けに明るい女の子だった。
幼稚園児の頃の燃えるような恋情とは違い、憧憬に近いものだったが、小学校から持ち上がりの中学生の時にクラス中にレズバレし、元々あまり関わりもなかったため結局卒業まで一切喋ることはなかった。
高校ではキリッとした同じクラスの顔立ちのギャルに熱烈な片想いをしていた。
頭が良く、スポーツ万能で、私のような陰気なレズにも対等に接してくれる女の子だった。
実はこのギャル、中学生の時に前述のさちかちゃんとたまたま塾が一緒だったらしい。
さちかちゃんは大変お口が軽薄でいらっしゃったので、何故か私のセクシャリティを塾中にアウティングしていたそうで、入学直後に「ねえ、○○中学の○○ちゃんだよね?レズの!」という衝撃すぎる本人確認をされる運びとなった。
渚24歳、現在は国分町のレズバー「楽園」でキャストとして名を売っているが、16歳当時は高校の小さなクラスでただのレズとして名を売っていた。
衝撃的な出会いから一年半、テスト前にはギャルの家に泊まり込みで勉強会をする程度には仲が深まったのだが依然として関係は進展しないままだった。
テスト勉強の傍ら恋愛の話もしていたが、私にとってはギャルがどこまでいってもノンケだと思い知らされる苦痛の時間でしかなかった。
私は私でたまたま隣のクラスにいたひとつ上の女の子と付き合ったり、掲示板で知り合った女の子といい感じになったりと青春は謳歌していたのだが常に頭の中にいるのは件のギャルだった。
私はギャルと、お互いがどれだけ大切か、どれだけ好きかという話がしたかったのであって、ギャルの好きな男の先輩の惚気を聞きたいわけではなかった。
成人した今なら分かるが、ギャルにとって私は「一緒にいて落ち着く友達」でしかなく、関係を長続きさせたいなら自分の気持ちに蓋をしているのが一番賢かったのだが、当時の私はそこまで堪え性がなかった。
関係を進展させたかった。だから急いてしまった。
遠回りをしてギャルをバス停まで送りがてら下校している時に、ギャルの弾丸トークを遮ってぽつりと呟いた。
「私、○○ちゃんのこと好きなんだよね」
ギャルが凍りついた。綺麗に上がった睫毛に縁取られた目が私を凝視していた。
やってしまった、と思った。
その後どうやって家に帰ったか覚えていないが、テスト勉強に付き合ってもらえて助かったこと、帰り道暇だから話し相手になってもらえて助かったこと、ジュースをよく買ってきてくれて助かったことをつらつらと、他人行儀に、浮わついた声色で感謝されたような気がする。
友達といえば聞こえはいいが要するに利用(といっては傲慢かもしれないが)されていたということは分かった。
呼び出せばいつでも来るし、好きなジュースやチョコレートの銘柄も把握している、ギャルが好きなDVDを折半して買おうと言えば二つ返事で頷く陰気なレズは扱いやすかったと思う。
多感な年頃だった。家庭環境が複雑で、常に希死念慮を抱えていた私は早まり、ここが潮時だと思った。
学校終わりに実家の二階から飛び降りた。
高さをつけるためにベランダの策によじ登り、勢いをつけて飛んだ。
センシティブな性格だったので、ギャルと同じ制服を着たまま死にたいと思い着替えはしなかった。
遺書も残さなかった。
私の頭の中を潰れた私の死体、さめざめと泣くギャル、あと何故か献花台のイメージが走馬灯のごとく駆け巡った。
目を瞑り、衝撃を覚悟した。
数秒後、私の脚の裏はしっかりとコンクリートを踏んづけて立っていた。
誤算があった。
ひとつは、人間たかだか数メートルの高さを落下したところでそう死ねはしないと気付かなかったところ、ギャルに憧れて精一杯短くしたスカートが風圧で舞い上がり、往来に無印良品のパンツと大根脚を晒してしまい耽美とは程遠い姿であったこと(私の実家の前は交通量の多い道路だった)、小さい頃から陸上、テニス、水泳を習い車に三度轢かれても骨折ひとつしなかった私の身体は本人が思っているよりずっとタフだったこと。
玄関の扉を開け、リビングにいた母親と目が合った私は努めて平静に挨拶をした。
「ただいま」
あれからかれこれ7年、高校の担任と口論になり衝動的に担任の向こう脛を蹴っ飛ばした挙げ句高校を自主退学した私は、国分町でレズバーに勤務し浴びるほどシャンパンとテキーラを飲んでいる。
休日は文庫本片手に煙草を吸うか音楽を聴きながら手首を切っている。
剃刀で舌を2つに裂いたり、女関係で警察沙汰になり、オーナーと元カノと私で朝まで警察署に行ったりもしている。
先日、せんだいマチプラさんというWebメディアの方に取材をしていただいた。
好きなタイプはどんな女性ですか?という質問に、私は間髪いれずに答えた。
「うーん、黒ギャルですかね!」
白ギャルはもうこりごりである。
★今回エッセイを執筆した店子・NAGISA
- ピアッシング、タトゥー、セルフスプリットタンなど身体改造に特化した大人気中性CAST
- 国分町一刺激的なwoman only bar「楽園」在籍
- 5月生まれ、AB型
- レズビアン
- 好きなタイプは黒ギャル
仙台・国分町唯一!レズビアンバー「楽園」公式HP
「楽園」
住所 :宮城県仙台市青葉区国分町2丁目8-3
営業時間:19:00~LAST