【第5期】仙台藝術舎/creek 学級日誌|②<講評>石膏像をデッサンしない

場所

編集の恐山Rです。私ごとではございますが、2023年8月から始まったアートの学校・「仙台藝術舎/creek(第5期)」に通っております。

仙台藝術舎 / creek
第5期:2023年8月~2024年2月
会場(レクチャー場所):仙台フォーラス7F「even」

仙台藝術舎/creekは、次世代のアーティストやアートに携わる人を育てる学校です。2016年に設立したアートの学校「仙台藝術舎/creek」は、パンデミックに伴う3年間の休講を経て、いよいよ再始動します。(中略)思考と対話と実践を通して、仙台から生まれるアートの支流(creek)を絶やさず、肥沃な社会と人をつくる一助となれば幸いです。

もとより、編集者やキュレーターとしての知識を深めたり、まちづくりやメディア運営ではない目線から地域のことを探求するのはずっとやりたかったことなので、仙台藝術舎/creek(以下・creek)に通うのは良い機会だと思っています。

私の拙い学級日誌風のレポートから興味を持った方は来期、ぜひ申し込みしてみてくださいね(今後、5期の卒制展についても告知させていただけたらと思います)。

では、第2回目「creek 学級日誌」、ご確認ください!

きょうの せんせい

2023ねん 9がつ 24にち くもり

前回から引き続き、講師を勤めるのは絵画制作やグラフィックデザインを手がける木村良さん。イラストレーターとしても活躍していて、ゆるキャラのデザインを担う他、美術カフェ ピクニカやアートルーム エノマの運営等もしてきた方です。


《ジュピター木村良

きょうの じゅぎょう

今回は第1回の授業「石膏像をデッサンしない」をもとに制作した作品の講評です。F10号程度のキャンバスに石膏像をモチーフにした作品を制作するという課題が発表され、受講生は3週間程度で思い思いに制作してきました。

<豆知識>F10号のFってなぁに

Fはキャンバスの規格で、「Figure」の頭文字。人物画に適したサイズのキャンバスということです。

「F」は「Figure」……を意味し、人物画に適したサイズ

「P」は「Paysage」……風景画に適したサイズ

「M」は「Marine」……海景画に適したサイズ

「S」は「Square」……正方形

 

講評会では柳谷さん、南條さん、そして私の作品が集まりました(後日、他の受講生の皆さんの作品も集まりましたが今回は当日の様子を記録しております)。

講評会の流れ

①最初はどの作品が誰のものかは明かさず、みんなで鑑賞
②最後に本人からタイトルと「自画自賛」な解説ポイントを発表、質疑応答

当日は基礎コースの別の授業を担当する大嶋先生やヌードデッサンから参加している受講生の丹下さんも参戦し、緊張感も高まります。

微笑むブルータス?

最初の作品はこちら。

講評会 参加者からのコメント

  • 凹凸がかわいい感じ
  • 存在感がある
  • 近付いてみたくなる
  • 長場雄氏の人物イラストのお顔を思い出した、かわいい!
  • 線を絶対書かないぞ!というこだわりと狙いがしっかりしているのを感じた
  • 石膏像というより微笑む観音像のようだ

こちらは受講生・南條さんの作品。質感のおもしろさと、実際のブルータスの厳ついイメージとはちょっと違う柔らかさが面白いというコメントが集まりました。

▲実際のブルータスの石膏像。

 

《俺は、白の中の白にいる》

カエサル暗殺時のブルータスの気持ちをタイトルに込めました。黒=悪白=正義

自画自賛ポイント

  • 白い画面に、白い絵。なんて面白いんだろう!
  • 同じ白でも、メーカーや素材によって違うので、僅かな違いや、質感を活かして描いているところがよきポイント。
  • この作品は、もっと色々出来そうな気がして、これからも楽しみ。

 

渦巻く波

お次はこちら。先ほどの作品とまた違ったテイストですね。

講評会 参加者からのコメント

  • 並べられた作品の中でもアウトラインがはっきりしているため、一番最初に目に入った
  • 色がキレイ、渦巻いていて
  • 実はここの背景が真っ白ではなく、何色も重ねられているのがいい
  • ブルータスの服の渦巻いている感じが、なにかあるのかなとか、すごく気になった
  • アウトラインがある。デッサンは線で描くな!陰影で捉えろ!みたいなことを言われるがそれを無視しててすごくいい
  • 背景と石膏像の質感が違っていて、背景を意識しているのが分かる
  • 服の色のところがすごく有機的で生々しさを感じる
《波の中》

書き進めている中で、服を観察していたら波のように見えてきて、波の中にある色、光、渦巻いているところを表現したいと思い、描いてみました。

自画自賛ポイント:

  • いつもは、はっきり描くことが苦手なので、今回はあえてアウトラインをしっかり描いた
  • 石膏像のことをあまり意識しすぎないよう表現できた
  • 背景については最初に色を塗って、自然なマットな感じが出せたらと。色を付けた部分はアクリル。

 

長内マネージャー:石膏像はもともと人体で、人体も有機的で様々な色があると想像できそうですよね。でも今回は服の部分にだけ色をつけようと思ったのはなぜなんでしょう。

柳谷さん:自分にとって石膏像は人間というよりオブジェでしかないという印象で。ただ、服のところには惹かれたんですよね。

木村先生:過去と現在で、服は現在にも接続しているということなのかもしれないですね。

大谷先生:ぱっと見た瞬間に面白さのほうでいうと、台を描いていないのがおもしろいと感じました。台座を描いてしまうと石膏像らしくなってしまうし。

柳谷さん:デッサンのときは台座を描いていたのですが、なにかに固定されてしまう印象があるなと思ったので、今回は台座を描かないと決めていたんです。

木村先生:美大では、台座を描かないと「台無しだ」と言われる。どこにその石膏像があるかわからなくなるので。

柳谷:今回は「波」を描くと決めていたので、浮遊感があるほうがいいと思っていたんです。

 

▲加筆した作品を柳谷さんに見せていただきました。ネイビーの背景色と抽象的な台座の要素が加わって、より印象的になりましたね!素敵!

なんだこれは

なんだこれは(岡本太郎)。天地はこれで合っているのでしょうか?早速、見ていきましょう。

講評会 参加者からのコメント

  • かわいい!すごく好き。これなんだろう?と思うものがいろいろある。
  • 石膏像の顔そのものは描いていないのがすごくおもしろい。
  • 自由だなと思った
  • 二つの石膏像をこういう組み合わせで並べる構図がなかなか思いつかない。
  • 黒いラインはなんだろう?とか、影のところのカラフルな色は何だろうとか?
  • マティスの絵みたいだなと思った。
  • 石膏像と言われないとわからない。そもそもの石膏像を見てないというのもあり。
  • マティスよりもカラフル。蛍光色みたいな色もあり。
  • タッチもすごく好き。家に飾りたいなと。

※アンリ・マティス(1869~1954)……20世紀を代表する美術家のひとり。豊かな色彩と思い切った画面づくりが特徴的で、マティスの絵画・平面表現は美術史においても大きな影響を与えた。

何を隠そう、こちらは木村先生の作品です。

《二つのトルソー》

自画自賛ポイント:

  • 上の石膏像のラインをこう描いたのがおもしろいなと思った、線の発見!
  • 彼女(パジャント)の髪の毛のウェーブをいろんなところにちりばめた
  • デッサンしていた空間にあったカラーボックスのフレームも描いた
  • 石膏像の鼻筋をまず描いたところで、マスクのようにしたいと思ってこうなった
  • この穴(上部)の感じもいいでしょ

 

事件が起きたらいいな

どう見ても穏やかじゃないこの作品でラストです。

講評会 参加者からのコメント

  • はっきりとした赤みのある背景の上にある、というのが何らかの意思を感じる
  • 使われている水色がきれいで、バランスがいい(水色と赤とグレー)
  • 空を飛んでいるみたいな浮遊感や動きがある
  • 赤色1色で背景を塗ってしまわないのがいい
  • 左上の白い三角が効いていて、石膏像と繋がっているのがいい
  • 穴の深さ、闇の深さがあっていい
  • 台座が穴に入って行きそうなのと、髪の毛の立体感もいい
  • 本当はデッサンの精密さで言えば穴が頭と繋がっていないといけない。それはまた別として、この穴が異世界に行ってしまいそうな気がするし、その感じを強調するとすれば、穴の黒の質感がなにかあるといい。
《パジャントに何があったのか》

とにかく怖い絵にしたいと思いました。最初はもっとグロテスクに肉をつけようとか考えて、何度か下書きをしていました。ただ、ここまでストレートではなく、なおかつおぞましい感じにしたくて整理していくうちにこうなりました。

自画自賛ポイント:

  • 石膏に血が通っている感じにしたいと思ったので、少しピンクがあったり、浮き出た血管のために水色などを使用
  • パジャントの縦ロールの髪の毛は本来はまっすぐだが、倒れている感じを出すため動きをつけた
  • 最初のデッサンと途中段階の下書きと今回の作品を一緒に並べるといいなと思っている
  • 怖い感じにできた!

 

柳谷さん:三角形の比率はどう決めたんです。

恐山R:画面を半分に割った三角形だと、本当にただ石膏像が倒れているだけに見えるから。ここまで塗ることにしたっす!

丹下さん:赤い色を選んだ理由は?

恐山R:色選びやら構図やら、全ては「怖い絵にしたい」ということから全て選んでいて。絨毯なのか空なのか、曖昧な色にしたかったという感じですかね。

長内マネージャー:デッサンのときに穴が見える位置で描くのは私なら選ばないかなと思ったんです。あえてこの位置からの見え方にこだわったんでしょうか。偶然難しいアングルになる席に座っちゃいましたか。

恐山R:いえ、デッサンの時もこの穴が描きたいと思って。穴が見える位置を選んで描いたのも自分の意思です。

空間の違いを体験

木村先生:では空間体験してみましょう!(作品をギャラリーの壁面に設置する)

絵の見え方としてはこういう感じになる。そうするとどう感じますか?たとえば自分の家にこういう絵があるとして。

恐山R:スポットがちょうど当たっているので、よりおしゃれに見えますな。

柳谷さん:さっきより背景の色がより見えるようになったかも。

恐山R:キャンバスの影がフレームみたいになって、柳谷さんの作品のアウトラインになってるのがいいな。

木村先生:画面に対して、下のほうが開いているので、そこをカバーするラインを入れるとかしてもいいよね。こういう絵が部屋にあってもおもしろいよね。今回、みなさん描いてみてどうだった?

柳谷さん:最初に「この方法がいいな」と思ったことを頼りにしたほうが、描き進めやすいと感じましたね。

恐山R:私も同様で、授業で描いた中でこれだ!と思ったデッサンをもとに描くのが結果的に良かったです。creekコースの座学の合間にちょっとずつ描いたり、家でもエスキースを描いていたんですが、結局これ(最初のデッサン)が頭から離れなくて。本当にこれが描けてよかったなと思ったし、その課程でいろいろ表現を試せて良かったです。

きょうの じゅぎょうの かんそう

「今回の講評で『自身の作品を自画自賛しよう』と伝えた理由は、私自身が自分の作品を自画自賛できないからなんです。難しいよね」と話してくれた木村先生。

「ここが上手じゃない」「見せられたものではない」と自分を責めてしまいがちで、描いたものを自分の言葉で褒めるというのはたしかに厳しいものがあります。しかしながら、木村先生の授業テーマは「アーティストの目をひらく・私の中のアーティスト」。

自由にやれ!納得いく自分の絵を描いてみよう!って、結構難しいんです。だから、このレクチャーは自由になるための訓練のようにも思います。

仙台藝術舎/creek5期 卒制に向けてアップ中!

講師:長内綾子(キュレーター)、鯨井謙太郒(ダンサー・振付家)、熊谷海斗(エンジニア)、慶野結香(キュレーター)、佐々 瞬(アーティスト)、志賀理江子(写真家)、福住 廉(美術批評家)、福原悠介(映像作家)他

○成果発表展
2024年2月10日(土)~15日(木)

○会場(授業ならびに成果発表展)

仙台フォーラス7階 even @even_sendai
〒980-8546 宮城県仙台市青葉区一番町3丁目11-15

  • 問い合わせ先

仙台藝術舎/creek事務局(担当:関本/長内/安部)
TEL:022-398-6413もしくは022-796-3308(even)まで

メール:info(at)turn-around.jp
*(at)を@マークに変えて送信してください