<前編>そうだ、人形館に泊まろう【ひとがた通信*秋保の杜 佐々木美術館&人形館*ウラロジ仙台コラボ】

場所

人形館に泊まって欲しい!?

_____2021年 某日。

一実:らむねさんお久しぶりです、秋保ひとがた文化研究室の一実です。2020年度は「ひとがた談話」ラジオへ出演いただき、お世話になりました。

恐山R:一実さん、お久しぶりです!昨年度はお世話になりました。

秋保ひとがた文化研究室
秋保ひとがた文化研究室は人形・ドールを通して人間を見つめ直したり、人形にまつわる作品の話題を扱うなど、広い視野で探究・情報発信を行なっている団体。


人形に関する情報ポータルサイト・ひとがた通信
の運営や、直近では2021年11月13日(土)〜12月12日(日)まで秋保の杜 佐々木美術館&人形館にてひとがた通信展「ドールという変移する記号」を主催。*ウラロジ編集部・恐山Rも出展予定

 

一実

1989年生まれ、仙台在住。人形作家。東北生活文化大学非常勤講師。2005年頃から人形制作を開始し、仙台を中心に個展などの活動や、秋保の杜佐々木美術館&人形館での常時展示も行なっている。秋保ひとがた文化研究室を立ち上げ、webサイト「ひとがた通信」配信。

 

一実:らむねさんって、ウラロジ仙台っていうローカルWebメディアを運営しているじゃないですか。ちょっと編集部の皆さんにご相談というか、お願いがあって。

恐山R:なんですか、クスリとか犯罪以外なら大抵やれると思いますけど…。

一実:いや、その、秋保の杜 佐々木美術館&人形館に泊まってみて欲しいんです。

恐山R:はあ……。は…?えっ、泊まるんですか、美術館に?えっ?

一実:厳密には、創作人形の展示メインの『人形館』に泊まって欲しいんです。人形を制作する作家でもない、普段人形に触れる機会も少ない方たちが、人形がたくさんいる展示室で一晩過ごしたらどんな感情を持つのか知りたいんです。

恐山R:何そのマニアックな探究。マッドサイエンティストか…?うーんまぁ、面白そうなので検討します。

マジで泊まるの?人形館に?

秋保の杜 佐々木美術館&人形館は、ウラロジ仙台も軽くご紹介コラムを掲載させていただいておりました。

【3分でわかる!】秋保の杜 佐々木美術館&人形館【仙台市太白区 秋保】

 

上の記事をご覧いただけるとわかると思うのですが、秋保の杜 佐々木美術館&人形館は美術家・佐々木正芳さんの作品を中心に展示している『美術館』と人形作家による創作人形中心に展示している『人形館』の2棟に分かれています。今回はそのうちの『人形館』で一晩過ごしてみて欲しいという無茶振りご依頼でした。

ちなみに、この話題を提供いただいた直後のウラロジ編集部の反応が以下、こちらです。

そりゃビビりますよね、最初は。誰だってビビる。

面白そうだから泊まってきました

 

_____人形館宿泊の話題提供から数ヶ月後…
(※新型コロナウイルス感染症の影響等も加味して延期になってしまっていたのでした)

恐山R:というわけで、私と花さんで、ついに人形館に泊まってきたよ。

S:本当に泊まってきたんですね…。

恐山R:泊まってきた様子をレポートにまとめたので、今日は編集部のみんなからコメントをもらいたいなぁと思って。あと、ゲストとして全ての元凶・秋保ひとがた文化研究室の一実さんを呼んできたよ。

一実:こんにちは、一実です。人形館に泊まってきたレポート報告会があると伺いまして、参加させていただきます。よろしくお願いします。

のちゃ:はじめまして!

猫子:こんにちは♪ 今日はコメントよろしくお願いします。

ちなみに明るい時間の人形館はこんな感じ

人形館 1F

レポート報告後はアフタートーク&過ごしてきたスコアも!

恐山R:で、今回は皆さんからコメントの他にも、我々が過ごしてみた結果を客観的に見た指標が欲しいな〜と思ったのでスコア制を設けています。勝ち負けは特にありませんが、最後に集計して読者の皆さんにも発表しますね。今後の参考になればなぁと思います(なんの?)。

それでは、行きますよ!

◎早速、夜の人形館レポート

泊まってきた日の行動の流れ

恐山R:この日は、だいたい以下のようなスケジュール感で過ごしてきました。

17:00ごろ…暗くなってきた!

17:00すぎ…ベッドメイク

ここを、キャンプ地とする!


個展会期中の作家さんもまだ館内にいらっしゃったので、不安より気恥ずかしい気持ちが強かったです。(恐山R)

 

猫子:『遊戯王』の海馬社長がチラ見え。

S:社長のフィギュアやら、タオルやら…。お守りみたいなもんですか?

恐山R:まあ話すと長くなりますが、そんな感じです。

17:30…夕食

おばあちゃんちかな

人形の威圧感や圧迫感というものは一切感じず、祖母が家の棚に人形や置き物を飾っていたことを思い出し、懐かしさと親近感が込み上げました。(花)

 

花:そうそう。座りながら夕食を食べていて、ふと天井を見上げると吊るされている人形があることに気付いたんです。らむねさんも以前来た時には気付かなかったんですよね。

恐山R:うん、まったく知らなかった。なんともいえない表情してるよね、この子。

漂うドン引きオーラ

個人的にはこの時点で既に人形たちから「なに…あんたたち…寝袋ひいて…部屋着になって…まさかここに泊まるつもり!?」と言われているようなドン引きオーラを感じました。憎悪ではなく、あくまでドン引きされていたような…(恐山R)

 

18:00…雑談、探索

強気なヤツが登場

▲見とるよ。

他の人形たちは「何お前ら…まぁ…えぇけど…」という雰囲気だったのですが、この一体だけはものすごく圧をかけてきましたね。ここにきてはじめて人形が怖い!ってなりました。(恐山R)

 

恐山R:ちなみに、ペルーのお土産らしいです。強めのお酒が入ってたとか。

デュエル!!!!!!!

恐山R:悔しいから、デュエルさせときました。

花:この光景、何度見ても笑っちゃうんだよなあ… 。

録音されない怪談

話の流れでWebカメラを回しつつ怖い話をしていたのですが、録画できていなかった。いや、絶対押したよ、録画ボタン。(恐山R)

 

恐山R:人形たちから「ここでこんな話すんなや」という圧だったのかなぁ…と。これ、ちょっとだけ怖かったな…。

18:30〜21:30…館長・克真さんへインタビュー

▲宙に吊ってある人形を座って眺める克真館長とウラロジ編集部


恐山R:
インタビューというか、造形教育の話題などで白熱してしまい、館長・佐々木克真さんを3時間も拘束してしまいました。

一実:3時間(笑)

恐山R:反省はしてます、後悔はしてないけど…。地べたに座ってインタビューってのが普段はなかなか無いので、この状況がまず面白かったです(おもしろいエピソードをたくさんお伺いしましたが、それはまた別の記事で!)。

花:克真さんは「アキウルミナ-AKIULUMINA-」を運営するアキウルミナ協議会の役員でもあり、地域との連携にも力を入れています。いかに地域の人々と対話して地域振興へ巻き込んでいけるか、美術を秋保エリアから発信していくか…克真さんの取り組みや佐々木美術館のエピソードをじっくり聞けて、たいへん勉強になりました!

克真館長「本当に泊まっていくんですか、人形館に」

克真館長「まあ…その…お気をつけて…」

 

のちゃ:意味深。

21:30ごろ…探検

昼間と違う人形たちの表情・佇まいにワクワク!

昼間にも一度人形館を巡回しましたが、電気の落ちた状態でも見学して見ることにしたんです。ドールハウスのみ照明を付けた状態にしたところ、光によって花嫁衣装を纏ったドールにスポットライトが当たる様な構図になり、映えて見えたのが印象的でした。(花)

 

花:少しダークな作風のコーナーも、暗がりの中で鑑賞することで、より一層ダークに見えましたね。

恐山R:夜になっても「出ていけ」という雰囲気はなく、むしろ「やっぱり泊まってくの?ちゃんと布団かけて寝なね」くらいの温度感を感じました。ペルーのお土産を除いては、ですが…。

23:00…就寝

お気に入りの人形のそばで

人形館の入口側(ドールハウスと反対方向)で就寝。「幾何学少年」というタイトルの人形に惹かれたので視界に入る様に寝てみました。(花)

 

花:こちらは寝転がりながら撮った写真で、なかなかいい感じだと自分でも気に入っています。変わらずドールからの圧や恐怖心はなく、ぐっすりと眠ることができました。

恐山R:花さん、昼間に人形館を見てまわっていた時から「幾何学少年」を気に入っていたよね。

一実:「幾何学少年」の幾何学モチーフは当初、手に持ってたはず。何かの拍子で落っこちちゃったみたいですね。

花:そんなエピソードが!割れた幾何学モチーフは切なさを表現してると思っていました…。

▲深夜2時頃、スヤスヤと寝ている花。

恐山R:そして花さんは本当にぐっすり寝てた、羨ましかったくらい。私は例のペルーのおみやげからは少し離れて寝たので人形さんたちからの圧は全くなかったものの、謎の物音で夜中何度も目が覚めてちょっとしんどかった…。自宅だとどんなにうるさくても眠れるものだけど。

恐山R:あと、結構寒かった。

翌朝 6:00…起床

無事、朝を迎えることができました。

見上げればほら

起きてすぐ少年の人形を拝めて幸せな気分になれました。また、入り口側に展示された動物の人形たちを見上げると、面白い表情を見せてくれたなぁと!(花)

 

贅沢な朝の美術館

電気が付いてない朝日という自然光の元での作品鑑賞。柔らかく優しい印象を受けました。(花)

そうなんですよ、朝の佐々木美術館、最高。差し込む光、中庭のグリーン…。世界が輝いてましたね。夜中は環境的にトイレに立つタイミングや物音に敏感になるタイミングが多かったけれど、むしろ人形ちゃんたちに守ってもらえたから無事に朝を迎えられた説があるわね…。(恐山R)

 

おはよ♪おはよ♪

朝、寝ぼけてこの子に「おはよ♪おはよ♪」って声かけてたんだ、猫撫で声でさ…。この「見返り美人」はGALLERY ECHIGOのオーナー・越後しのさんと、フローリスト・齋絢子さんのコラボ作品。実は前回人形館を訪れた際もずっと気になっていたんだよね。(恐山R)

 

おまつるふモーニング

ちょうどこの時は音楽映像作家・浅野託矢さんの個展「おまつるふ」会期中で、インスタレーション作品のもとで朝食を食べさせていただきました。盆踊りとか、夜のイメージが強い作品なのに朝鑑賞する贅沢さね。(恐山R)

※施設およびアーティスト側から飲食・撮影許可を得ています

 

▲通常開館時間の「おまつるふ」。当たり前だけど、パジャマで味噌汁を飲んでいる人はいない。

恐山R:一実さんにおにぎりと味噌汁を買ってきてもらったんだよね。パシってすみません…。それにしても、浅野さんの個展「おまつるふ」はすごく見応えがあってよかったな!一緒に朝を過ごすことになるとは思わんかったけど…。

花:朝からお祭り!エモい気持ちになりましたよね。

花の総括

「人形に囲まれた空間に泊まる」という企画は、かつて見てきたバラエティ番組によって肝試し的な立ち位置や印象を受けていましたが、実際に経験してみると恐怖どころか癒しになっていました。バラエティ番組の印象で【人形と過ごす=怖い】となるのはもったいないな、と感じました。

また、座る・横になって人形と同じ目線の高さ、もしくはあおりの構図で作品を見るという経験は普段行えないので、新鮮でしたね。

My フレンド 「幾何学少年」

吉田美和子さんの作品「幾何学少年」は一目見た瞬間心を奪われました。作家の長野まゆみ先生の物語に登場しそうな美少年×落下した幾何学的なモチーフという組み合わせが最高にエモくて尊いなと。古屋兎丸先生のマンガ「アマネ♰ギムナジウム」にも美少年の人形が登場しますし、その影響もあって特別気に入ったのかもしれません!

恐山らむねの総括

取材前は「どのくらい緊張するものか」という不安がありましたが、ベッドメイクが終わった瞬間から実家のような安心感があり、自然体で滞在を楽しむことができました。

正直、記事として発信する上でつくりこんだ演出も必要になるか?という懸念もありました。しかしながら、今回記述しているレポートは自然なアクションによるものです。面白いですよね。花さんも言っていましたが、「人形=夜中に動くかも+怖い」という先入観はもったいないと感じた1日となりました。

▲あくまで自然体。

My フレンド 「見返り美人」

やはり自分としては越後しのさん×齋絢子さんの「見返り美人」ちゃんしか勝たん。

人形館に来てから「久しぶり!」と思ったし、寝起きでは実際に「おはよう」と声をかけてしまったほど。ちょっとした衝撃で壊れてしまいそうなので手で触れたり持ち上げたりすることは遠慮しましたが、機会があれば手に乗せて一緒に写真を撮りたい可愛さです。

永遠のライバル 「ペルーのおみやげ」

遊戯王・海馬社長のフィギュアを一晩そばに置いたら心を開いてくれるのではないか?と思いましたが、全くそんなことはなく、朝になっても「お前だけはほんま許さん」という目線を感じました。ちなみに、花さんには圧の眼差しを向けていなかったようです。なんなん。また人形館に行ったら、今度こそ仲良くなりたいな。

恐山R:…長くなりましたが、報告は以上です。

後編へ続く

★後編では、こちらの「泊まってきたレポート」をもとにウラロジ仙台編集部と秋保ひとがた文化研究室同士であれこれ話したアフタートークをまとめています。お楽しみに!

取材・執筆:恐山R
取材・制作協力:花
取材協力:秋保の杜 佐々木美術館&人形館/秋保ひとがた文化研究室
special thanks:人形館に展示されている人形の皆様

秋保の杜 佐々木美術館&人形館
所在地:仙台市太白区秋保町境野字中原128-9
TEL:022-797-9520
開館時間:10:00~17:00
(月曜休館・月曜日が祝日の場合は翌日 / 冬季間は予約営業です)

<入館料>
一般…¥800
学生…¥400 中学生以下…無料
年間パスポート…¥2,000