花です。私個人の記事としては今年一発目の記事になります。
今年の1月に公開されたウラロジ仙台編集部メンバーの抱負を公開する記事で、私は「さだやす先生にインタビューしたい」と書いていたのを皆さん覚えていらっしゃいますでしょうか。
さだやす先生は『王様達のヴァイキング』というエンジェル投資家と天才ハッカーのバディ漫画を発表されていた漫画家です。
※ちなみに『王様達のヴァイキング』についてはウラロジ仙台内の記事でちょくちょく触れてたりもします。
その抱負、なんと……実現しちゃいました!!!!!
さだやす先生と担当編集を務める山内菜緒子さん(以下山内さん)お二人に宮城県についての印象や思い出、そして現在さだやす先生が小学館のビッグコミック系列青年誌の作品が読めるWebサイト「ビッコミ」にて連載中の警察バディ漫画『サイドキック 吉祥寺警察署生活安全課』(以下『サイドキック』)についてお話を伺いました。
お二人共、実は宮城県と浅からぬ縁があるのだとか!?一体どんな縁なのか…気になった方は早速インタビュー本編へGO!
※今回の記事は漫画『王様達のヴァイキング』及び『サイドキック』の本編に関する情報が含まれております。予めご了承下さい。
さだやす先生&山内菜緒子さんインタビュー

さだやす
埼玉県出身。アフタヌーン四季賞2006冬のコンテスト四季賞受賞。第66回小学館新人コミック大賞青年部門入選。『王様達のヴァイキング』で連載デビュー。

山内菜緒子
神奈川県出身。「週刊ビッグコミックスピリッツ」「月刊!スピリッツ」編集者。
小学館青年誌(ビッグコミック系列)の連載作品を配信する漫画サイト「ビッコミ」の編集長を務める。
宮城といえばやっぱりグルメ!
ーお二人が宮城や仙台についてどんなイメージを持たれてるのかお聞きしたいです。
山内さん:旅行や仕事の取材で何度もお邪魔したことがあるので、仙台には馴染みがあります。街の方々がフレンドリーですよね。初めてお伺いした小さな居酒屋さんで他のお客さんが話し掛けてくださって意気投合したりもして。そういうこともあって勝手に親近感を抱いています(笑)。
そして何を食べてもご飯が美味しい!
以前「伊達のぎん(※)」という宮城のブランド鮭を丸々一匹頂いて食べたことがあるんですが、すっごく美味しくてびっくりしました。
※宮城県女川湾・雄勝湾・志津川湾にて養殖・水揚されている銀鮭
さだやす先生:私は宮城県をほとんど訪れたことはないのですが、私の歴代のアシスタントさんの中に仙台出身の方がいまして、その方がお歳暮に牛タンを贈ってくださったこともあって、そこから「宮城=美味しいものがある」というイメージが強くありますね。
あとは以前『王様達のヴァイキング』が宮城県警のサイバー犯罪対策課とコラボ(※)して宮城県警の方とお会いした際、すごく優しくて温かい人柄の方が多かったので、宮城にはそういう方が住んでらっしゃるのかなと思いました。
※2018年1月、宮城県警のサイバー捜査官募集のポスターに『王様達のヴァイキング』のイラストが採用された。
ー宮城で行ったことがある場所はありますか?
山内さん:以前、八木山ベニーランドや八木山動物公園へ行きましたが楽しかったです。
さだやす先生:結構前にですが仮面ライダーや特撮が好きなのもあって石ノ森萬画館に行ったことがあり、石ノ森先生の生原稿を見て感動しました。
山内さん:私は漫画編集者なので仙台の書店さんにも昔からとてもお世話になっています。東日本大震災では仙台駅周辺も大きな被害がありましたよね。震災の2ヶ月後に仙台にお伺いした際にその姿を目にして「大変な状況に遭われた書店や書店員さんはどうされているのかな」とずっと心配でした。その後、喜久屋書店仙台店さんを訪れた時、ご復活された店内で漫画家さん達のサイン色紙や凝った店内装飾を拝見して嬉しかったです。またお邪魔したいですね。
『王様達のヴァイキング』と宮城県警のコラボについて
ー先程さだやす先生がお話されていた『王様達のヴァイキング』が宮城県警のサイバー犯罪対策課とコラボされたことについてですが、どういった経緯があったのでしょうか。
山内さん: 当時、宮城県警の生活安全部の警察官の方から編集部にお電話をいただきまして。最初は「警察から電話?何かしたかな?」とドキドキしたのですが、「『王様達のヴァイキング』がハッキングだったり、IT系の事件を取り扱っている作品なので、子供達が漫画を読まれることもあるでしょうから、もしお願いできるならば単行本の巻末ページに“クラッキング行為は犯罪に当たります”といった注釈を入れてもらえませんか」というご相談だったんです。
▲実際に掲載された注釈
IT技術をポジティブに使う行為と犯罪に使う行為について、子供達にはその判断がつかないこともあるので「やってはいけないことがあるんですよ」という啓蒙をしたい、とのご相談でした。そこで、さだやすさんとストーリー協力の深見さん(※)にもそのお話をして、単行本の巻末に注釈を入れさせて頂きました。
そのご縁から、宮城県警のサイバー捜査官募集ポスターへのイラスト使用のご相談を頂いたんですよね。さだやすさんが「是非!」ということでしたので、イラストをご提供したんです。その一件で宮城県警さんが感謝状を贈りたいとおっしゃってくださり、さだやすさんと一緒に県警を訪れて警察官の方々とお話をさせて頂きました。
※『PSYCHO-PASS』『バイオハザード:デスアイランド』等の脚本を手掛ける小説家、脚本家、漫画原作者の深見真先生。

©️さだやす/小学館 『王様達のヴァイキング』1巻 / 第1話より
さだやす先生:『王様達のヴァイキング』で、サイバー犯罪を行っていた主人公の是枝は坂井に出会ったことで救い上げられて人生が変わりましたけど、 現実の世界では子ども達にこういったサイバー犯罪に関わってほしくないですし、 犯罪防止や社会貢献に繋がるなら、是非ポスターに使ってくださいっていう気持ちでOKしたんです。
「せっかくなら警察官のキャラクターも一緒に出してもらおう」と思って、サイバー犯罪対策課の丹羽と捜査二課の神崎、是枝の3人の絵を使って頂きました。
▲当時『王様達のヴァイキング』第9巻の表紙のイラストが宮城県警のポスターに採用されました。左から神崎、是枝、丹羽。
感謝状の拝受で宮城県警を訪ねた時、サイバー犯罪捜査を担当する方と初めてお会いするという貴重な経験をしましたし、県警の1階でポスターとデジタルサイネージが展示されていたのを見た時、役に立てたなら良かった、作品を描いてて本当に良かったなと感じました。


『サイドキック』は宮城県警での出来事がきっかけで生まれた
ー最新作『サイドキック』についてもお聞きします。今回なぜ生活安全課の人々を題材にしようと思ったのでしょうか。
『サイドキック 吉祥寺警察署生活安全課』
刑事課をクビになった新人警察官・金平が厄介事の宝庫ゆえに不人気ナンバーワン部署「生活安全課」に異動し、破天荒な捜査員・鬼ノ城と事件を解決していくバディ漫画。
▲『サイドキック 吉祥寺警察署生活安全課』第1巻書影。左:鬼ノ城、右:金平
さだやす先生:宮城県警を訪れた際に生活安全課の方々とお話する機会があり「生活安全課というものを描いてみたい」と思ったのが一番のきっかけです。
「生活安全課」という名前を聞いたことはあっても、どんなお仕事をされているのかそれまでわからなかった。実際にお話を伺ったら、警察署の中でも何でも屋さんのような立場でいろんなトラブルを一気に引き受けて、自分たちの生活を守ってくれる存在であるとそこで知ったんです。
©️さだやす/小学館 『サイドキック 吉祥寺警察署生活安全課』1巻 / 第1話より
実際の警察官ってすごく過酷なお仕事をされているから、その方々のことを忘れたくない。それを漫画に描くことで読者の方と共有できたらいいなという思いで『サイドキック』を制作することに決めました。
ー前作『王様達のヴァイキング』では天才ハッカー×エンジェル投資家の壮大なストーリーでしたが、今回は私達読者にとっても親しみを覚える身近なキャラクターやストーリーという印象を受けました。
さだやす先生:前作は主人公達が「世界を変えるぜ!」みたいな物語で読者の皆さんにワクワクしてもらいたいという気持ちが大きかったんですが、実際に描いてみると才能溢れる人って本当に一握りの存在だから、派手なキャラクターたちと一緒に楽しむことはできても、読者の方々が自分を投影できるキャラクターではないのだろうなとも思ったんです。 次にもし連載がもらえるならその時は「自分のことだな」と感じられるような、等身大の人間を主人公にしたいなと考えました。
ー今回のダブル主人公の金平と鬼ノ城はどのようにして生まれましたか。
▲金平。死体が苦手で刑事課をクビになり生活安全課へ異動。心配性で細かいことに目がいく。
©️さだやす/小学館 『サイドキック 吉祥寺警察署生活安全課』1巻 / 第1話より
▲鬼ノ城。破天荒な捜査手法を繰り出す捜査員。一見穏やかそうだが「警察官に感情なんていらない」と言い切るストイックな一面がある。
©️さだやす/小学館 『サイドキック 吉祥寺警察署生活安全課』1巻 / 第1話より
さだやす先生:金平たち警察官のキャラクターを読者の方々に「自分の知り合いだ」と感じてもらえるぐらい身近な存在として描けたらいいなと思っていたので、 金平はとにかくいい奴にしたかったんです。絶対応援したくなるような真っ直ぐさで、 仕事に真摯ないい奴を描きたくて金平はそうなったんですね。バディものなので、鬼ノ城は逆にミステリアスな存在として作りました。
「警察ってこんなことまでするの?」みたいなお仕事ぶりと同時にプライベートの人間味がある部分も描けたらいいな、と思っています。
山内さん:私は前連載『王様達のヴァイキング』も編集担当させていただいたのですが『ヴァイキング』の坂井と是枝が天才コンビだったので、『サイドキック』では全く別ベクトルのコンビにしようと初期にご相談しましたよね。結果、金平と鬼ノ城は等身大のキャラクターではあるけれど、坂井・是枝コンビとはまた違った意味での天才コンビだなあと担当としては感じています。やはり、さだやすさんのキャラだなあ……と(笑)
ー『サイドキック』本編で『王様達のヴァイキング』のキャラクターの名前が登場し、同じ世界線ということを匂わせていますが、今後も『王様達のヴァイキング』キャラクターの登場を期待しても良いでしょうか?
さだやす先生:『王様達のヴァイキング』が初連載なのもあって思い入れがあるので、遊び心で出しました。今後も出てくるかはわからないですけど、読者の皆さんが喜んでくださるなら前向きに考えたいです。
ー警察もので幅広い層の人に受け入れられる作品だと思うのですが、その中でも特にどんな方に読んで貰いたいですか?
さだやす先生:被害者も加害者も同じ人間で「自分だって被害者、加害者、どちらにもなるかもしれない」っていうところを一つのポイントとして描いてるんですけども、今つらい思いをしていらっしゃる方にもこの物語が届けばいいなという気持ちでいます。
スカッとする話ばかりじゃないので辛いところはあるんですけど「みんなが安全に暮らすために何ができるのか」ということを、キャラクターたちと一緒に読者の方にも考えてもらえたら嬉しいです。
山内さん:各エピソードを作るにあたり、まずストーリー協力の真野勝成さん(※)とさだやすさんに事件の大枠構成をご相談するのですが、「自分のまわりで起きてもおかしくない」がその軸にあります。取材時に犯罪者という立場になった方の身の上話も伺うので「遠い世界の話じゃない」という実感もあります。特にどんな方、というのは難しいですが、強いて言えば「犯罪は遠い世界の話だ」と思っていらっしゃる方にも読んでほしいです。
※『相棒』等の脚本を手掛ける脚本家。
ー貴重なお話ありがとうございました。最後にメッセージをお願いします。
さだやす先生:正直『サイドキック』は地味な漫画なんですけど、一生懸命描いてるので、笑ったり悩んだり読んでいろんな気持ちになってもらえたら嬉しいので、ぜひ応援よろしくお願いします。そして宮城に行った際は美味しいものを食べます!
山内さん:『サイドキック』は善と悪をあえてハッキリさせない、主人公たちが被害者と加害者の線引きを作らない物語なので、とても難しいチャレンジで……。祈りのような物語だなと思っています。でも今、さだやすさんが描くべき物語なのだとも思うので、宮城の方に限らずですが、皆さんに読んでいただいて一緒に感じていただけたら嬉しいです。
インタビューを終えて
『王様達のヴァイキング』が宮城県警とコラボしたのは当時から知っていましたが、まさかそこから最新作『サイドキック』に繋がっていたとは……!すごく貴重なインタビュー体験でした。
さだやす先生と山内さんもおっしゃっていたように、事件・事故は自分事と考えて気を付けていきたいですね。
インタビューを読んで『王様達のヴァイキング』『サイドキック』が気になった方は是非チェックしてください!どちらも「ビッコミ」にて読むことができます!
『サイドキック』第2巻が2月12日に発売!
そして『サイドキック』第2巻が2025年2月12日に発売されます!

◎喜久屋書店仙台店での購入特典は全国書店共通描き下ろしペーパー!
2024年に取材させて頂いた喜久屋書店仙台店では全国書店共通の購入特典ペーパーが配布されますので、気になる方は是非手に入れてください。
◎ライター・花も帯コメ寄稿!?
また、今回発売の第2巻では僭越ながら帯コメントを寄稿させて頂きました!
どんなコメントかは是非単行本をゲットしてご確認ください!
取材・文:花
写真提供:山内菜緒子様
取材日:2025年1月20日