山形落語浪曲小旅行〜ソーゾーシーツアー2025山形公演〜

初めましてみなさま。“委員長”と申します。
この度ウラロジ仙台編集部に加入させていただきました。

インタビュー記事を前回掲載いただいていますので、詳細はそちらをご参照ください。

今回は自己紹介がてら、人生初の山形への旅(+私の趣味である「落語・浪曲・講談などの話芸」)について書かせていただきます。夢はウラロジ寄席。


 

山形に行くしかない。そう思った。
ソーゾーシーのツアーが、今年もある。しかし、チケットが発売されている前半には軒並み行ける日程がない。

そんな中唯一押さえておいた日が、山形公演であった。

9/27 ソーゾーシーTOUR2025山形公演〜立川吉笑真打昇進記念ツアー;遊学館ホール

日程はわかっていたものの、毎日X(旧Twitter)で検索してもなかなかチケットの発売日がわからず、やきもきしているうちに日が過ぎていた。山形への行き方もよくわからなかった。これまで一度も行ったことがない。仙台駅からJRで行くのが良いのか、やたらフォーラス前から出ているバスに乗るのが良いのか。そもそもどのくらいかかるのか、何もわからない。

そんなある日に、チケットの発売日が公開され、そして発売日になり、何も考えずその日のうちにチケットを取った。公演の時間を考えるとバスで行ったほうがいいことも、調べていくうちにわかった。

行くしかない。

チケットを取っているから間違いなくそうなのだが。
初めて行く場所には極端な出不精で、「1時間も移動したくない」と思い尻込みする自分からすると、珍しいほど強くそう思った。

当日。ウラロジ編集部の会議を途中で抜け、12時発の山形行きのバスに乗った。
前日から読み始めていた『DUB入門──ルーツからニューウェイヴ、テクノ、ベース・ミュージックへ(河村祐介監修、Pヴァイン) 』を開き、気になったStarship Africa(Creation Rebel)を聴き始める。次々と登場する聴き慣れない音が見慣れない景色と共に、独特なリズムで迫ってくる不思議な高揚感の中、そのディスクガイド・インタビュー集を読む。いつの間にかバスは高速道路を降りていて、見知らぬ選挙ポスターが違う土地に来たということを実感させる。

山形駅前で降りると、ちょうど聴き始めたアルバムが終わった。少し歩いて現実感を取り戻しながら、路線バスに乗り替える。行き慣れた場所ではない会場であり、期待よりもまず不安が勝る。経路検索で指定されたバス停で降り、初め逆方向に行きながらもなんとかたどり着く。

同じ建物にはきれいな図書館があり、図書館好きとしては興味を惹かれるが時間はなかった。
ホールは入ってみると思ったより広い(基準は普段の花座の客席)。ホール落語は久しぶりだな、とワクワクしながら手ぬぐいを買ったりして開演を待つ。

いつものようにソーゾーシーのテーマが流れる。生で聴いた時泣いたなあ、と思っていると、メンバーが舞台に登場する。その瞬間に、いつもの「これ」だなあ、という感覚が蘇ってくる。

マンネリでもない、ただの緊張でもない何か。今回は立川吉笑師匠の真打昇進記念ツアーということもあり、より柔らかな空気の中、オープニングトークが終わり、太福先生の浪曲が始まる。

玉川太福(曲師:玉川みね子)『昔話を曲にのせ』
…まさに浪曲の「ライブ」であり、私浪曲とも違う芸そのものの持つ良さ。

春風亭昇々『ぼくの退職』
…出て来る人間が困れば困るほどおもしろい、その世界の魅力的なこと。

<仲入り>

瀧川鯉八『贈る言葉』
…間・テーマ・流れる時間の全てが、形容すべき言葉はもはや「鯉八ワールド」しかないです。

立川吉笑『くしゃみ指南』
…真打昇進後一作目のこちらは、肩の力を抜きつつも理屈のおもしろさもある、まさに吉笑落語。

ネタおろしであるので、ある意味真逆の言葉ではあるが、ソーゾーシーの公演、やはりそこには、安心できる穏やかで幸せな空気がある。演者側からすれば到底そうでないのかもしれない。しかし、聞く側からすると間違いなく、そういった感情なのだ。
太福先生は「ナマの」存在としての唸る声の良さはもちろん、ライブ感や今を生きる「ナマの」演芸という良さ、昇々師匠はその熱さ、追い込まれた人間の見せる圧倒的輝きという良さ、鯉八師匠はその世界観、発することばの細部に至るまでこだわり抜かれた良さ、そして吉笑師匠の理と感情で脳が揺らされるような良さは、まずなにものにも変え難い。そしてさらに、ソーゾーシーとして5人が揃った時、それに加えてなにか、そこにしか生まれないようなふわふわとした幸福な時間・空間が確かに現れる。

終わったあと、山形駅まで歩くことにした。ただ歩きたかった。

地図である程度の方向だけを確認する。

病院だったとは思えない建物や大きな看板が吊られた書店を見たり、野菜を買ったり、古着屋さんでシャツを買うか悩んだりしながら駅前に着く。

時間があったのでモンベルに行くと、地域限定のTシャツが仙台と同じで妙な気持ちになりながら駅に戻った。夕食を摂り、辺りが暗くなり始めたころに帰りのバスに乗る。さっき歩いた道をバスで通るのは最終回のエンドロールみたいだな、と思いながら、本を読む気も音楽を聴く気も起きずただ目を閉じた。

 

余談:なお、今回の公演は噺館<はなしごや>さんの主催である。別の公演で噺館五周年記念誌を購入して読んだのだが、その熱意と継続には感嘆してひたすら頭が下がる。今後もっと、山形に通わせていただきます。

© 噺館(はなしごや)/ 出典:噺館五周年記念誌(私物を撮影)

執筆:委員長