人形、ぬいぐるみについて周り道して考えられる映画紹介
編集長の恐山Rです。気温が情緒不安定だ!
さて、今週はお久しぶりの編集長ブログです。決して更新スケジュールを調整したかったとかではない……。
今回は、人形にまつわる映画の紹介とそのレビューです。本記事では「よかった・いまいちだった」という映画レビューではなく、人形というモチーフに焦点を当てた所感などをつらつらと連ねていきます。
したがって、エピソード・脚本に直接触れるというよりも人形と人間の関わりや、人形がどのように立ち回っているか……という点を重視したレビューとなっているので、ただ面白い映画を探している人には不親切な映画レビューになっています。すまんってワケ。
ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい/監督 金子由里奈
2023年4月公開の映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい(原作・大前粟生)』では「ぬいぐるみに話せば他の人に気を遣わせない、傷つけることがない」と考える学生たちで構成されるぬいぐるみサークルと取り巻くジェンダー、セクシュアリティ等の話題を扱っています。
【あらすじ】“京都のとある大学の「ぬいぐるみサークル」を舞台に、”男らしさ”“女らしさ”のノリが苦手な大学生・七森、七森と心を通わす麦戸、そして彼らを取り巻く人びとを描く。”
この作品は、人形やぬいぐるみをキャラクターに見立てて対話する人々を描くストーリーではありません。最初は私も勘違いしていました。
ぬいぐるみと対話するのではなく、あくまで、身近な人間に話せないことをぬいぐるみへ一方的に話すだけ。その行為を通して見えてくる登場人物の人間像、「ぬいぐるみに話せば他の人に気を遣わせない、傷つけることがない」というのは本当に優しさなのか、危うい脆さではないか?色々と考えさせられる作品です。
それはそれとして、ぬいぐるみや人形が所狭しと飾られたぬいぐるみサークルの部室は本当に圧巻!細部まで鑑賞するのが好きな方は画的に気に入るかもしれません。ぬいぐるみとしゃべった経験がない人も、優しさのかたちに新発見があるかもしれないです。
残り期間わずかですが、まだ上映している映画館も各地にあるので、どうしてもシアターで観たい方は行脚をおすすめします。DVDや配信サービスなどでの購入・レンタル開始も期待したいですね。
上映中の映画館情報:https://filmarks.com/movies/104590/theaters
血のお茶と紅い鎖(Blood Tea and Red String)/監督 クリスチャン・セガフスケ
2023年5月時点での視聴・レンタル可能サービス:Amazon Primevideo
【あらすじ】貴族の白いネズミたちが、オークへ人形製作を依頼するが、いざ完成するとオークたちは人形に愛着が湧いてしまい、ネズミたちに渡せなくなってしまう。オークたちからお金を返されても、どうしても人形が欲しいネズミたちは無理やり、オークたちから人形を奪い返してしまい……。
※視聴者側の想像力・読解力が試される仕様の作品のため、上記あらすじには主観が混じっていることをお詫びいたします。
2006年2月公開のストップモーションアニメ作品。こちらは先述した映画と違い、物語を綴る手段として人形が使われています。登場パペット(キャラクター)は主にネズミやオーク、カエル。あと、人形。セリフが鳴き声なのでサイレントではありませんが、想像力が試されるアニメーションです。
人形が人形を奪い合う、不思議で残酷な大人のおとぎ話。
話が飛躍しますが、『変身』などの著作が有名な小説家であるフランツ・カフカの『兄弟殺し』では「なぜ人間は血の詰まったただの袋ではないのか」というセリフが登場します。この映画に登場するパペットには、なぜだろう、血が通っている。そう感じさせられるんです。
もし、「この映画に登場するパペットを踏め!」と言われたら踏めないと思います。しかしながら、ただキャラクターの顔がついている人形だからかわいそうだ……という理由とは違う。うまく言語化できない面白さがありますね。
「人形の持つキャラクター性」や「人形とのコミュニケーション」について関心を持った方は以下、ウラロジ仙台の過去記事もぜひご覧いただきたいです。
空気人形/監督 是枝裕和
2023年5月時点での視聴・レンタル可能サービス:Amazon Primevideo
【あらすじ】独身の秀雄はお気に入りのラブドールに「のぞみ」と名前をつけ、食事の際はテーブルに座らせるなどして普段から愛でていた。ある時、秀雄が出社しているタイミングでのぞみはヒトのように動きだし、今まで知らなかった外の世界や恋という感情を知っていく。
こちらはラブドールが心を持って動き出すという、それだけ聞くと「!?」となる設定の2009年公開の邦画です。
心を持ってしまった空気人形(ラブドール)が、意思を持ったことで気づいてしまうこと。ある種、「大好きなお人形をそばに置いて自分の救いに」の裏返しで、「人形は意思を持っていないから自分の好きなようにできる(意思を持ってしまったら意味がない)」という暴力的な側面も自覚させられてしまうストーリー展開。
ごっこ遊び、着せ替え遊び、そして冒頭で紹介した『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』劇中のような人形との対話は一見救いのようで、こういった暴力性のある側面もまた浮き彫りになってくる興味深さがある作品です。
人形と向き合うかたちを考える面白さ
ほんなわけで、今回はさらっと3作品ご紹介させていただきました。
自身の主観ですが、まだ現代においてはぬいぐるみや人形は女性や子どものものである……という認識が強いように思います。
しかしながら、属性をかなぐり捨て、「人間と人形」「文学と人形」など、もう少し大きな単位で見つめてみると、新たな発見があるかもしれません。ぜひ、興味の持った方はこういった映画や関連しそうな書籍など触れてみてください。
宮城県であれば秋保の杜 佐々木美術館&人形館にフラッと行ってみるのもおすすめです。
※我々のように、泊まらなくても大丈夫です。
秋保の杜 佐々木美術館&人形館
所在地:仙台市太白区秋保町境野字中原128-9
TEL:022-797-9520
開館時間:10:00~17:00
(月曜休館・月曜日が祝日の場合は翌日 / 冬季間は予約営業です)<入館料>
一般…¥800
学生…¥400 中学生以下…無料
年間パスポート…¥2,000
編集長のぼやき、今回はこのへんで。それでは、また来週!
執筆:恐山R