ウラロジ仙台編集部のShimMyanです!もう11月だ……冬だ……冬は好きなのだ……。
ここ数年は市内でいろんなまちづくり系のイベントや社会実験が開催されてますが、改めて仙台というまちの力学を多角的に見ていければなと思ってます。
ところで、私自身は生粋の仙台っ子で18歳まで仙台で育ちました。その中で街場である仙台駅近辺で遊ぶといっつも行くところは仙台駅前のEBeanSや(磯臭い場所にあった)アニメイト、仙台フォーラスなどでした。ただ、少し大きくなったくらいでPARCOが来たのでよく16〜17歳のころはPARCOにも行きました。
今回は仙台駅の街場にあるいわゆる「ファッションビル」(定義は後ほど確認します)、東北資本のEBeanSやエスパルなどを中心に事物(アクター:人間と非人間)の連関の「結果」としてどのような空間が立ち上がっているのか考察します。
「ファッションビル」ってそもそも?
まず「ファッションビル」の定義ってなんでしょうか。コトバンクによると、
ブティックなど、ファッション関係の専門店を中心にテナントとしていれ、おしゃれ感覚やハイセンスを売り物にしたテナント・ビル。ビル全体のイメージ統一がはかられ、テナントの選定も厳しいものがあり、販売促進活動などは統一して実施される。大規模なファッション・ビルとしては西武百貨店のPARCOが有名であるが、最近では原宿や吉祥寺など若者が多く集まる街でのオープンが目立っている。
とあります。とにかく建物全体としてテナントにファッション関係の専門店を収容するビルのことを指すと思われます。また、多くのファッションビルでは飲食店や喫茶店も入居していますが、基本的には建物全体でファッションをメインのコンテンツとしているのはいうまでもないですね。また、食料品や家具なども売っている場合もありますね。
まずその前に「東北地方発の総合ファッションビル」として開業した嚆矢は実のところ、今はない「141ビル」になります(私がネットで調べた限りです)。現在は基本的に三越に全てを貸していますが、2008年以前はファッションビル「141ビル」として様々なテナントが入っていました。詳細は以下のwikipediaに譲りますが、私は子供の頃よくきましたね……
また、もう今はないのですが「141ドーム」というのもありました。こちらは円筒のような形の建物で、今の東二番丁店のローソンの向かいの駐車場付近にありました(場所に関しては、私の記憶が正しければね)。
▲三越手前の金蛇水神社ののぼりには名残として上記の表記があるよ
エスパル仙台、EBeanSを中心に読み解いていく
それでは、今回は
- エスパル仙台
- EBeanS
この二つのファッションビルを中心に考察してみたいと思います。主に東北資本または仙台に根付いているファッションビル(商業施設)です。
これらは仙台の中心部に位置し、市内で育った方なら青春時代の1ページとして利用したこともあると思います。
仙台の「ファッションビル」の基本情報
まず、基本的な情報を整理していきます。
仙台駅近辺から一番町まで各店舗の情報を集めて、表にすると以下の通りです。比較のため、PARCOおよびPARCO2や仙台フォーラスについても記載します。また、私の地元であり、副都心でもある長町「ザ・モール(THE MALL)」についてもちょっとだけ触れます。
S-PAL仙台本館 | 仙台駅前EBeanS | 仙台PARCO | 仙台フォーラス | ザ・モール仙台長町 | |||
テナント数 | 約220 | 47(店舗数) | 約150 | 62(店舗数) | 約151(店舗数) | ||
売り場面積 | 17,550 m² | 24,852.4m²
(延べ床面積) |
13,200 m² | 12,965 m² | 46,381.40m2 | ||
テナントジャンル | ファッション、飲食とコスメ。保育園やカルチャーセンターも。 | ファッションの他、アニメ、ホビーや本屋、ゲーセンなど | ファッション、飲食、コスメや専門店(ベガルタショップやポケセン)など。 | ファッションや飲食、カルチャースペースなど。 | ファッション、飲食、本屋、スーパー、映画館(Ⅱ)、子育て支援施設「のびすく」(ララガーデン)、ゲーセンなど。 | ||
立地 | 仙台駅西口直結 | 仙台駅から仙台朝市方面へ歩いてすぐ | 仙台駅西口をアーケード方面に歩いてすぐ | ぶらんどーむ一番町の方にある | 地下鉄長町南駅直結 | ||
集客数 | 500万人/日(想定) | 情報がないがイベント単位では30-40万人/日(推定) | 2018年で1820万人/年 | 平日35000人/日、土日55000人/日 | 1000万人以上/年 |
※全て2023年10月時点
※情報のリソースは公式ホームページ、各種IR資料そして報道から引用・立地はShimMyan調べ
それでは各種基本情報を確認しましょう。
S-PAL仙台本館
「S-PAL」の由来は、英語で「S」(STATION=駅)と「PAL」(友達)を合わせた造語で「駅の友達」という意味。経営母体は仙台ターミナルビル株式会社でS-PALという名前のファッションビルは、東北一円(仙台駅、福島駅、郡山駅、山形駅)にあります。主要株主はJR東日本で、1978年3月18日にS-PAL仙台本館が開業しました。別館扱いの東館とS-PAL Ⅱは2000年代に入ってからの開業です。
▲本館ファッションフロアはレディース向けアパレル・雑貨ショップが大半を占める
なお、資本関係上同会社の社長はJR東日本の執行役員がつくケースが基本になっています。
*参考ページ
https://www.s-pal.jp/wp-content/uploads/2017/03/seo201703press.pdf
エスパル仙台「エキチカキッチン」12年ぶり改装 生鮮・総菜・グロサリー計15店https://job.mynavi.jp/25/pc/search/corp112307/outline.html
仙台駅前EBeanS
1928年、宮城県志太郡鹿島台(現大崎市鹿島台)で食料品・雑貨を扱う商店として開業。1936年、呉服店を買収し、エンドーチェーンの第1号店である遠藤屋呉服店が開店し、1951年には株式会社エンドーチェーンが設立されました(前身は戦前に創業された)。
そして、1964年にEBeansの前身である「仙台駅前ビル」が開店という流れのようです。イービーンズの名称の由来は、創業者の遠藤氏から「遠藤チェーン」の「エンドーチェーン」と「エンドウ豆」から「E(エンドウ) – Beans(豆)」という流れです。
▲若者向けのカルチャー・ファッションが集まるEBeanS。それぞれの価格帯もお手軽。
*参考ページ
公式ホームページ
<比較事例>仙台フォーラス
仙台フォーラスは、宮城県仙台市青葉区一番町にあるショッピングセンターで、1975年に「ジャスコ仙台店」として開業し、1984年に「仙台フォーラス」に業態転換しました。イオングループのファッションビル「フォーラス」の第1号店です。金沢にもフォーラスという同じブランドのビルが存在します。名前は「私たちのために」を意味するfor usからきています。
開発はイオングループのイオンリテールが担い、運営はその子会社のOPAが行っている。同ビルは2024年3月末日から劣化調査のため長期休業が予定されている。また、OPA自体はフォーラスブランドを順次「OPA」ブランドに変えること予定している(フォーラスって名前なくなるのか???秋田のフォーラスはOPAに既に変わっているけど)。
*参考ページ
仙台フォーラス 来年3月休業へ|NHK 宮城のニュース
<比較事例>仙台PARCO
PARCO!!言わずと知れた東京のビルブランドですが、2008年に仙台PARCOが開業しました。PART2は2016年に開業します(私は2015年に仙台を出ましたが、2019年に久々に戻ってきたらいつのまにかできていたのでびっくりしました)。
とにかく今も人出がすごいですね。アーケードに向かう導線の中にあるので、必然とちょっとぶらっとしていこうかなという気にさせられます。
*参考ページ
https://www.parco.co.jp/pdf/jp/library/ar2019.pdf
仙台駅前の店舗のみ時系列で見ると開店順としては、以下の通りです。
1964年:仙台駅前EBeanS
1978年:S-PAL仙台本館
1984年:仙台フォーラス
2008年:仙台PARCO
実際にはこのほかにも今はもうないので本稿では取り扱いませんが、百貨店系としては「丸光」「十字屋」そして「長崎屋」、またファッションビルとしても「ams西武」(現在のLOFT)などが仙台一円にはありました。
さて、以下は余談ですが……
<参考まで!>ザ・モール仙台長町
株式会社西友が展開するショッピングセンターで「ザ・モール」というのはブランド名で同名には「ザ・モール郡山」がある。1997年に開店し、今は受託の施設運営として「JLLリテールマネジメント」が運営している。ここ10年はララガーデン長町なども併設され、長町の盛り上がりもありかなり熱いと地元民ながら勝手に思ってます。
*参考ページ
https://jll-rm.co.jp/records/the-mall-sendainagamachi/
施設の立地やテナント、それぞれが持つイメージを比較する
次に細かく見ていきます。
「仙台駅前EBeanS」(以下、イービン)と「仙台PARCO」(以下、PARCO)と「S-PAL仙台本館」(以下、S-PAL)は仙台駅前にあり、唯一「仙台フォーラス」(以下、フォーラス)のみが勾当台公園方面のアーケードにあります。立地は以下の通りです。
売り場面積はイービンが最も小さいですが、入っているテナントがアニメやゲーム、カードショップなどが特に多くなっています。加えて、入ってるアパレルショップの系統も若者向け(GUやSPINNS、TRAVAS TOKYO)が多いです。
万人向けというより、しっかりとターゲットを定めたつくりになっている感じがあり、表の中の施設とは競合と言いにくい一面があります。私は昔ここに入ってた島村楽器でギターを買いました。群青日和で椎名林檎が弾いてたキラキラのDuesenberg(ドイツのブランド)のギターを買いました。
そして、競合関係にあると思われるのはPARCOとS-PAL。
PARCOは開業こそ2008年ですが、両者は隣同士で、入っているテナントなども似たジャンルです。仙台民からするとPARCOは舶来の東京のおしゃれビルで、S-PALは昔からある地元のおしゃれビルという感じですかね。女性向けのテナントが多いのでいずれも行く機会は少ないものの、PARCOは「ポケモンセンタートウホク(ポケセン)」や「JUMP SHOP仙台店」、「サッカーショップKAMO ベガルタ仙台グッズショップ」などに行きます。
立地を考えるとどちらも集客の数には対して差がないように思えますが、S-PALの2023年3月期の売上高は173億6300万円(S-PAL全館とホテルメトロポリタン合算)で、PARCOは193億円でした。少しPARCOが多い程度で、鎬を削っている感じですね。また、PARCOには「仙台フォーラス」にあったロリータファッション専門ショップ(Angelic Prettyなど)が2022年に移転するなど建物としての集客およびブランド力がやはり強い気がしますね。。
また、フォーラスは、仙台で青春を過ごした人(と言ってもPARCOができる前に市内で小中高を過ごした人って多分今の27才以降くらいかね)は「ラス前」と言って待ち合わせ場所にした人も多いと思います。ただ、他のビルと違って、立地がアーケード街をしばらく歩いた先にあり、集客力という点では見劣ってしまいます。そもそもサンモール一番町商店街方面自体が歩行者量が大きく減少していると言われて久しいので、まぁそうっちゃそうよね。
つまりどんなことが言えんのかいな
そもそもファッションビルという切り口には二つの含意があるのかなと思ってます。一つは「ファッション」です。
ファッションに限らずですが、現代社会では自己提示の唯一の記号であるファッションや音楽、嗜好などはシンボルとしての機能をを失ったと言えます。つまりその属性に紐付く表象は一つではなくなった感じです。ロックな格好をしているからと言って、別にタバコは吸わないし、シンプルな格好しているからと言って可愛いものが好きじゃないとは言えない。
記号と表象が大きく遊離していると言ったらわかりやすいかね。一言で言うとめちゃくちゃ「多様」になった!!!かつては隠避されていたことも今は市民権を得ました。
つまり、ファッションであればファッション以上の現実を提示しない。
またその上で市場も変化し、今日多くの人はファッションビルに出向いて服を手に取って買う行為は行わない。大抵はECサイトで買ったり流行りの服はユニクロやGUなどで安く買ったりする。その意味でファッションビルに入っているショップもその記号的価値は過去の遺産となっている。たとえば、都内の渋谷であれば109、仙台フォーラスであればロリータファッションなどの含意が終わり、それらが表象的に動員していた文化的資源も終わったように思われます。たとえば下妻物語でも例としていいのかもしれない。それが可能にしていたネットワークも過去のものとなったと言えるでしょう。
高度大衆消費社会化が進むなかで私たち、特に若者たちは、自分で身につける商品によって自己表現をしていくことになりますが、ファッションビルはその舞台装置の契機であり場であったと言えます。それが大規模資本、ここではあえて明記しないですが、より脱舞台化し、ただ利便性を求める情報のアーカイブとして結実したと言えるかもしれません。
この議論は有識者ならわかる通り、北田暁大先生の『広告都市・東京』の議論を下敷きにしてます。
二つ目の切り口は「ビル」です。今回は時系列というより最近の現実を点的に見ているだけですが、全体として言えることは、やはり仙台駅前〜ペデストリアンデッキの範囲で回遊性もあり、多くのお店が集客を期待して移動する可能性が高いことです。そしてその結果として推察されるのは仙台も他の似たような都市の景色になるということです。これは都市社会学で擦られてきた言説ですが、私が言えることは「まぁそうかもしれないね、特に仙台駅前は」くらいの話です。まぁなるようにしかならんくらいですね。
他方でもう一つの論点を浮かび上がらせます。それは「まち」です。
これも都市社会学などでは通例の流れだと有識者は考えると思いますが、都市空間の「まち」への変容というのが昨今仙台では活発です(仙台含め地方都市を対象に盛んに語られる図式です)。去年行われた以下の事例はその一つの証左です。
「青葉通仙台駅前エリア社会実験 MOVEMOVE」(主催・仙台市)
加えて、弊編集部が主催した「地下道-3150」(仙台市の負担金制度を活用して開催しました)
都市社会学などでは「まちづくり」とは「住民やNPOなど多様な主体によるハード&ソフト両面のマネジメントを旨とする居住環境改善の活動」とされます。従来、そもそも「都市計画・対・まちづくり」という図式だったものが、都市計画……つまり行政側がまちづくりを内包し主導する点は非常に面白い流れです。その意味でたとえば従来的には舞台装置であった仙台フォーラスはどのように変容しているのか述べると、仙台フォーラスの7階では「イーブン」(even)および「BASE sendai パーク」などまちづくりに内包するワークショップ的な場へと変容していると言えます。
※ここでいう「ワークショップ的」とは、多様な社会課題に地域レベルで対応するべく、参加・協働のまちづくりを自身のプログラムに組み込むようになったということです。
また先日従来管理される空間だった例えば公園……勾当台公園などを浮かべてもいいかも。実際、勾当台公園では防犯デザイン検証の一環で、先日焚き火が行われましたね。
仙台市主催の社会実験の場を借りてのたき火ティー。みなさん、人によっては夜から朝まで、場を囲んで、場を作ってくれて、ありがとうございました。また、あんな場を創りましょうね。 pic.twitter.com/1xLobD3gvm
— 仙台たき火ティー|人と火と対話の場所 (@sendai_takibity) November 11, 2023
まちづくり化する都市という大きなうねりの中で、地域とファッションビル、人々の連関を可能にし相互作用を促すワークショップ的な場が立ち上がっていると言えるのかもしれません。
執筆:ShimMyan
編集:恐山R
参考文献:近森 高明, 「都市」から「まち」へ――2000年代以降の都市記述の変容について――, 年報社会学論集, 2021, 2021 巻, 34 号, p. 37-44,