無茶振りクエスト番外編?専門家監修のもと、仙台三越で化石を探してみた!

場所

チャレンジクリエイター名鑑No.2でご紹介した、フリーライター・佐々木かいさん。

真面目でお硬いイメージを払拭し、苦手としている主観的な発信に挑戦していきたい……!というかいさんのやっぱりどこか真面目な思いを受けまして、ウラロジ仙台では、かいさんへの無茶ぶり企画「無茶ぶりクエスト」の連載をスタートすることになりました。

無茶ぶりクエストとは
ウラロジ仙台編集部から課された若干無茶なお題・ミッションのクリアを目指し、その過程をコラムにして提出していただくという連載企画。佐々木かいさんの「苦手分野にも挑戦していきたい」という心意気を応援するものであって、決して彼が突然の無茶ぶりに右往左往する様を見て楽しみたいとかそういうことではありません。

かいさんには先日、仙台市街地のビルで化石っぽいものを色々と探してきてもらいました。

前回ラストでちょっとだけ匂わせてましたが、実は今回、ビル化石について専門家の方とともに市内某所へ取材に行けることになりました!やったー!
以前はかいさんひとりにかなりしんどい思いをさせてしまいましたが、今回は編集Sと恐山Rも取材に同行。みんなでビル化石を探すわんぱく取材の模様をぜひお楽しみください。
それでは無茶ぶりクエスト番外編、スタートです!

専門家監修のもと仙台三越で化石を探してみた件について

前回(堅物記者の無茶ぶりクエスト #4 【2023年の仙台で観測できるビル化石を調査せよ】)は、1980年代に作られた化石マップを参考に、現代の街で化石を見ることができるスポットを調査しました。しかし、「これは◯◯の化石です!」と確証を得るだけの知識が無く、中途半端な結果になった感があります。そこで、専門家の方にご協力を仰いだところ、どういうわけか色々とありまして、何と!ビル化石を現地でご案内、解説していただけることになりました!何やら話が大きくなってびっくりしていますが、これはまたとない機会です。しっかり勉強して、ビル化石探しの魅力を堪能しましょう!

というわけで、
12月某日、筆者、編集長とSさん、そして街歩きの愛好家・渡邉曜平さんとともに、青葉区一番町4丁目の百貨店「仙台三越」に向かいました。東北を代表するデパートの一つで、高級感のある内装には、確かに化石が含まれていそうな予感がします。

それでは早速、専門家の先生にご登場いただきましょう!

「みちのく古生物研究会」会長の曵地泰博(ひきち・やすひろ)先生です。
30年以上にわたり、宮城県内の地層・化石等について調査・研究を続け、市民に身近な自然の楽しみ方を伝える活動にも積極的に取り組んでおられます。県内の化石の調査結果をまとめた図録の刊行も続けており、このほど6冊目が完成しました。野外の地層だけでなく、ビル化石の調査も長年にわたって手掛けている、まさにスペシャリストです!

ちなみに曵地先生には、市内の児童施設を運営されているという別の顔もあります。
「今日もクリスマス会の準備などなど、大忙しだったんですよ」※取材は12月某日に行われました
ご協力いただき、本当にありがとうございます……。

また、今回は(前回のように当てずっぽうの無許可ではなく)仙台三越さんにも取材のご協力をいただきました。重ねて御礼を申し上げます!

そもそも化石はどこにある?

仙台三越の内装には、見るからに高級そうな建材がふんだんに使われています。
床には不規則なまだら模様が見られますが、これは「大理石」の特徴です。大理石という名前は、聞いたことがありますよね?
曵地先生によれば、仙台三越にはイタリア等で産出された大理石が多く使われています。こうした大理石に注目することで、一般の人でも気軽に化石探しを楽しめるそうです。

ところで先生、質問です!

Q:なぜ大理石には化石が多いのですか?

A(そこから?という表情ひとつ見せずにやさしく教えてくださる先生):大理石は、堆積岩の種類の一つの石灰岩が熱の作用で変成してできたものです。そもそも、大理石のもとになる石灰岩は、海の底にサンゴ等の生物の死骸等が堆積してできるので、それらの一部が化石となって現れます。

Q:化石が見つかりやすいのはどんな所ですか?

A:大理石は、百貨店やホテルといった、内装に力を入れている建物によく使われています。ビル化石を探す時は、オフィスビルのような特定の人だけが使う場所よりも、不特定多数の人が出入りする所のほうが見つけられる可能性が高いと思いますよ。

そうなんですね!いやあ、前回の調査の前に聞いておけば、あんなことには……。

では、ビル化石探しのスタートです!
でも、広い館内から化石を見つけるのは簡単なことではないように思います。大丈夫でしょうか……。
と思っていたら、仙台三越の方が一枚の地図を手渡してくださいました。
「こちら、化石マップです」

ジャーン!!
何と、仙台三越では本館正面の案内所で、本館1階の床で見つけられる化石のマップを配布しているのです。マップを見ると、有名ブランドの並ぶフロアに、たくさんの化石が隠れていることが分かります。これは知りませんでした!

いきなり「真打ち」登場?

さて、マップによると案内所の目の前、ライオン像にも近い場所に矢印が伸びていますね。「コーチ」の前ということは、ホイッスルやメガホン、あるいはカツオのたたきの化石でしょうか?

あ、「そっちのコーチ(高知)かよ!」というツッコミをしていただいた方、ありがとうございます。ご恩は忘れませんが、マップには「アンモナイト」とあります。

アンモナイトと言えば、私の中では化石界の「真打ち」の一角です。およそ4億年以上前の古生代に出現、特に中生代に繁栄し全世界の海に生息していたタコやイカの仲間で、恐竜が絶滅するのと同時期に滅んだとされています。何と言っても、ぐるりと渦を巻いた殻が特徴的ですね。現代人の感覚だと「ゴツいカタツムリ」に見えますが、全然違う生き物だそうです。ポケットモンスターの「オムナイト」で存在を認識したという方もおられるのではないでしょうか?

アンモナイトって、そんなに簡単に見られるものなんですか?
と思っていたら、ありました。でも、え?ぱっと見た目、よく分からないのですが……。

渡邉さん「これですよ、この渦を巻いているやつです」

あーーー
確かに、ぼんやりとですが、大きな渦巻きが見えますね。「第一化石発見」です!
でも、これはアンモナイトというより、一六タルト(※愛媛県の美味しいお菓子)に見えました。ということは、この岩石は愛媛近海の瀬戸内海で堆積したタルトでできている……わけはありません。ごめんなさい。私の期待としては、もう少しきれいな渦巻きを想像していたものですから……。やっぱり専門家の方と一緒じゃないと、見落としてしまいますね。

一行は少し移動し、有名ジュエリーブランドのお店の前へ。ここにもアンモナイトがあるようです。まだら模様の床を凝視していると、先生が声をかけてくださいました。

「これですよ」

お、おっきい渦巻き!!

シーリングライトのように白くてまん丸!きれいに渦を巻いた姿は、まさにイメージ通りのアンモナイトです。すごい!
こんなにはっきりとした姿であれば、誰もが見つけられるかもしれません。

さあ、この勢いで他の化石も見つけまくるぞー!!……と、意気込んだものの……

↑サンゴの化石を探す一行

↑写真が少々不鮮明ですが、こちらはサンゴの化石とのこと。

下を向いて、まだら模様の床を凝視し続けるのは楽なことではありません。一般のお客さんの迷惑になってもいけないのでそれなりに気も遣い、早々に疲れてしまいました。曵地先生も察してくださったのでしょうか。
「百貨店の人通りの多い場所で下を向いて歩くのは、だいぶ恥ずかしいですよね。もう少し楽に探せる場所がありますよ」

柱に眠る太古のロマン

一行は、東二番丁通側の喫茶店がある辺りへ。床だけでなく、柱にも化石があるそうです。

確かに、柱ならば下を向かず、楽な姿勢で探すことができますね。柱を凝視するのはまだ少し恥ずかしいですが……。それにしても、変わった模様ですね。曵地先生や渡邉さんによると、おそらくフィリピン産の「ティーローズ」と呼ばれる岩石ではないか?とのこと。

曵地先生「ここでは、サンゴや、ゆうこうちゅうの化石がよく見られますよ」

……??サンゴはわかりますが、ゆ、ゆうこうちゅう???

あまりピンと来ないので、先生に解説をお願いします。ちなみに漢字では「有孔虫」と書くそうです。

曵地先生「有孔虫は、簡単に言えば殻の付いたアメーバのような生物です。『星砂(ほしずな)』って、聞いたことありませんか?星の形をしたきれいな砂ですが、あれは有孔虫が死んで残った殻です。およそ5億年前に出現し、さまざま形を変えながら、現在も広く全世界で命をつないでいるたくましい生き物なんですよ」

「化石はここにあります」

よく見ると、柱の一角に、キラリと光るひし形を見つけました。曵地先生に指さしてもらわなければ絶対に見つけられませんね。「化石」と言えばアンモナイトのような大きくて分かりやすい形のものばかり想像してしまいますが、指先ほどの小さな化石にも、太古の昔から続く命の物語が宿り、私たちの前に現れているのですね。ビル化石のロマンの一端を感じることができました。

マップにもある通り、本館1階では、他にもたくさんの化石を見つけることができます。

こちらはエスカレーターの近くで見られる「ベレムナイト」の化石です。この角度からだと、短くなった鉛筆のようにも見えますね。ベレムナイトはイカの仲間です。曵地先生によると、「骨」がとても硬いため、化石となって見つかることが多いとのこと。確かに、現代のイカも、開くと「プラスチック製か?」と思うほど丈夫な骨が出てくるよな……と調べたところ、「骨」という呼び方はあっても正確には骨ではなく、祖先にあたる原生生物が持っていた「殻」の名残なのだそうです。

そしてこちらは、またしても「アンモナイト」です。渦の巻き方がシンプルで、同じアンモナイトだとしても、化石ごとに見た目が全然違うのだなと実感します。それにしても、1階を歩くだけでこれだけの化石を見つけられるとは思っていませんでした。

建物と一蓮托生。ビル化石の「宿命」

曵地先生によると、他にも、普段お客さんがあまり歩かない階段の壁に、立派なサンゴの化石が残っているはずとのことです。一行は階段を一つ一つ上りながら、壁面を探してみたのですが……。

なかなか、それらしきものは見当たりません。
仙台三越の方によれば、東日本大震災やその後の地震被害で、内装は改修を繰り返しているそうです。もしかすると改修の際に、曵地先生の目に焼き付いたサンゴの化石は失われてしまったのかもしれません。曵地先生は「ビル化石の宿命です」として、こう語ります。

曵地先生「野外の地層に埋まっている化石と違って、ビル化石は持ち出せませんよね。そして、ビルの改修や建て替えで化石も失われてしまいますから、その意味で特別な存在です。でも、新しいビルができれば、どこかで新たな石とともに『発見』するチャンスも生まれますよね。そこが面白さだと思います」

仙台の街は、再開発等もあり、刻一刻と変化を続けています。2024年も、いくつかの新しい施設がオープンする予定の一方、閉店したり、解体されたりする建物も多いことでしょう。建物の運命と一蓮托生の「ビル化石」は、街の変化とともに、現れては消えていきます。今まで見られていた化石が失われるのは残念な一方で、新しいビルが建つ時には「ここには化石があるかな?」と想像する楽しみ方もありそうです。

最後に、曵地先生に「ビル化石」を探す面白さを改めて伺いました。

曵地先生「自分が『発見者』になれるのは大きな魅力ですよ。街で化石を見つけたら、『こんなのを見つけたよ!』と記録を残しておくことをおすすめします。化石探しは、旅行先でも、どこに行ってもできますからね。私も旅先のホテルではつい壁や床を見てしまいます。子どもからいつも『また見てるよ』と笑われて(笑)」

曵地先生のはにかんだ表情に、「自分もこんな素敵な年の取り方をしたいな」と思いました。人とはちょっと違った視点から物事を観察、記録し、「発見者」としての喜びをかみしめる。「ビル化石」に限らず、そんな楽しみ方を覚えておくと、日常生活がもっと面白く、濃いものになりそうです。

今回は仙台三越さんのご協力をいただいて店内のビル化石を探索しましたが、仙台市内、ひいては全国の多くのビルでビル化石は見つかります。お出掛けの際は少しだけ周囲に気を配ってみると、何か新しい発見があるかもしれません。

曵地先生、渡邉さん、仙台三越の皆様、今回は本当にありがとうございました!

ビル化石、大変奥が深いです

仙台三越でビル化石探しの回、いかがでしたでしょうか。
そもそも皆さん、三越でこんなにたくさん化石が見つかるなんてご存知でしたか?私は普段から利用する三越にこんなにも古代の生き物たちが眠っていたなんてちっとも知りませんでした。化石マップ今度もらいにいこうかな。
アンモナイトくらいわかりやすいものなら我々素人でも比較的簡単に見つけられるのですが、有孔虫やサンゴ、ベレムナイトともなると曵地先生が指をさして教えてくださるまでは全く気付けません。個人的には2階の柱にある楕円形の模様にしか見えないものを「パイプウニのトゲの断面ですよ」と教えていただいたのが特に印象に残っています。パイプウニのトゲの断面の化石を見極められる目、かっこよすぎる。

今回は曵地先生と渡邉さん、そして仙台三越の皆様のご協力により、大変充実した取材を行うことができました。本当にありがとうございます!取材当日はもとより記事内容のご確認にも大変優しくご協力いただけて感謝です。

思いがけず大きな話の広がりを見せたビル化石探索。
楽しかったのですがどうもさすがに無茶ぶりが過ぎたようなので、次は少し優しいお題を用意してみようかな……などと考えていますが予定は未定です。わくわく。
それではまた次回の無茶ぶりクエストもお楽しみに!

ウラロジ仙台では、作品を発表したいクリエイターの方を募集しています!

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著者紹介

佐々木かい(ささき・かい)

フリーの聞き手・書き手。1990(平成2)年、仙台市生まれ。地方新聞社の記者、社会福祉法人の広報職などを経て現職。主に地元企業の人材採用や情報発信のお手伝いなどに面白さを感じています。【急募】仕事と同じくらい楽しいこと【服装自由】

執筆:佐々木かい
編集:S