堅物記者の無茶ぶりクエスト #8-2 【仙台三十三観音逆打ち巡礼 太白区・若林区編】

場所

チャレンジクリエイター名鑑No.2でご紹介した、フリーライター・佐々木かいさん。

真面目でお硬いイメージを払拭し、苦手としている主観的な発信に挑戦していきたい……!というかいさんのやっぱりどこか真面目な思いを受けまして、ウラロジ仙台では、かいさんへの無茶ぶり企画「無茶ぶりクエスト」の連載をスタートすることになりました。

無茶ぶりクエストとは
ウラロジ仙台編集部から課された若干無茶なお題・ミッションのクリアを目指し、その過程をコラムにして提出していただくという連載企画。佐々木かいさんの「苦手分野にも挑戦していきたい」という心意気を応援するものであって、決して彼が突然の無茶ぶりに右往左往する様を見て楽しみたいとかそういうことではありません。

 

セブンイレブンアプリの「バッジ機能」サービスが終了したことにかこつけて、編集長とその手先・編集Sから「仙台三十三観音を巡ってくる」という無茶ぶりを受けたかいさん。
仙台三十三観音編 第1回では、仙台三十三観音に関する基本情報や巡り方のレギュレーションなどをご紹介しました。本記事からは、いよいよ本格的に仙台三十三観音を逆打ちで巡っていきます!

今回ご紹介するのは、太白区と若林区に点在する33番札所から26番札所までの8箇所の観音堂です。なかでも四郎丸・六郷エリアは特に難関とされているそうですが、かいさんの運命やいかに……!

仙台三十三観音を逆から巡る小旅行へ

33番札所 鹿落観音堂(大蔵寺)
今も昔も心を洗う せせらぎの聞こえる丘

2025年2月のとある日曜日、仙台三十三観音を逆から巡る小さな旅に出かけました。
逆から巡るので、最初にお参りするのは33番札所の「鹿落観音堂(ししおちかんのんどう)」です。広瀬川に架かる霊屋橋から向山に登る「鹿落坂」の頂上近く、狭くて急な石段を少し登っていくと、やがて木造の立派なお堂が現れます。
なお、鹿落坂は現在、歩道を作る工事をしているため、歩いて上るには少々危険です。参拝の際は、仙台駅前から仙台市営バス/宮城交通バスの八木山動物公園駅方面行きに乗り、「向山二丁目」で降りることをオススメします。

なお、私は自宅が近所なので、徒歩で向かいました。
だから逆打ちにしたのかと言われれば、それも若干あります。

思っていたよりも大きくないですか?

札所のお堂には、青銅色の文字で御詠歌などが刻まれた板が掲げられています。

閉ざされたお堂の前に立ち、ウラロジ仙台の発展と、メンバー・読者の健康を願って手を合わせ、仙台三十三観音巡りをスタートさせました。

さて、鹿落観音堂で印象的なのは何と言っても、境内からの景色です。

崖をえぐるように蛇行する広瀬川と、仙台駅周辺のビル群!

本来であればここが最後の札所なので、33か所の札所を巡り終えた人たちは、ここからの景色とともに達成感に浸ってきたことでしょう。今回は最初の札所ですが、スタートを飾る場所としてもふさわしい絶景です。

何を隠そう、ここからの景色は、すぐ近所で生まれ育った私の原風景でもあります。
小学6年生の時には、総合的な学習の時間(懐かしい!)での地域学習でこの鹿落観音堂を訪れました。当時こちらにいらっしゃった女性にお話を伺った、思い出深い場所です。

私が仙台と聞いて思い浮かべるのは、広瀬川と霊屋橋の白いアーチ、そしてSS30のある街並みです。
皆さんにも、ふるさとの原風景はありますか?

32番札所 十八夜観音堂(天台宗常蔵院)
副都心の谷間に秘められたロマン

次に目指すのは、太白区長町1丁目にある32番札所「十八夜観音堂」です。長町と対岸の河原町とを結ぶ広瀬橋のたもと、地下鉄南北線の長町一丁目駅や仙台南高校の近くにあり、鹿落観音堂からは広瀬川の右岸に沿って向かうことになります。両地点を都合よく結ぶ路線バスは無く、歩けば30分ほどの距離でしょうか。今回は、途中の東北歯科技工専門学校(向山4丁目)からDATE BIKE(ダテバイク)を利用し、川辺の景色を見ながら快適に移動することができました。

野性味あふれるサイクルポートです。

広瀬川を横目に進みます。2月だったので、ハクチョウを見ることができました。

広瀬橋交差点。十八夜観音堂は工事現場の裏手にあります。

広瀬橋のたもとにある交差点から長町の商店街のほうを向くと、目に入るのは大きな工事現場です(取材日時点ではマンションを建設中)。以前は「サニーランド」というおもちゃ屋さんの本店がありました。中学生の頃、カードゲーム「デュエル・マスターズ」が好きな同級生に連れられて遊びに来た思い出の場所でした。30代以上で太白区周辺で子ども時代を過ごした方の多くがお世話になったお店ではないでしょうか。

思い出話が増えたことに「加齢」という現実を噛み締めながら脇道へ入っていくと、ビルの谷間に、十八夜観音堂がひっそりとたたずんでいました。

▲マンションに囲まれてたたずむ十八夜観音堂

この場所にはかつて、常蔵院というお寺がありました。1059(康平2)年に開かれ、元禄年間に大年寺山から移ってきたとされています。本尊の聖観世音菩薩立像(せいかんぜおんぼさつりゅうぞう)は、長らく慈覚大師(円仁、794〜864)の作とされてきましたが、近年の調査で、さらに古い奈良時代の仏像の特徴があることが判明したそうです!なぜそんなに古い仏像が長町にあるのでしょうか。

仙台の南の副都心として開発ラッシュが続く長町地区ですが、建ち並ぶビル群の足元に、悠久のロマンを秘めた地でもあります。

参考:https://www.sendai-c.ed.jp/~bunkazai/shiteidb/c03015.html

第31番札所 落合観音堂(天台宗大善院)
重ねた歴史の厚みを感じる茅葺き屋根

次に向かうのは第31番札所の落合観音堂です。仙台市の最南端、名取市との境界に近い四郎丸地区にあります。四郎丸へは長町駅や南仙台駅から市営バスに乗るのがオーソドックスな行き方です。私も当初はバスに乗ろうと思っていました。

ところが、この先巡ることになる第30番札所からは落合観音堂から見て名取川の対岸、若林区の六郷地区に点在しています。川を渡ればすぐの距離ですが、この辺りに橋は無く、国道4号の名取大橋か、閖上大橋まで、かなりの迂回が必要です。
長町駅から落合観音堂までの所要時間は25分ほど。31番札所から30番、29番と巡っていくには、来た道を戻って、32番札所の近く(広瀬橋)から六郷地区に向かうバスに乗って……と、時間も距離も大きなロスが発生してしまいます。

さて、私はなるべく同じ道を通りたくない性分です。何とか効率的で面白い巡り方は無いか思案した結果、長町駅から電車に乗り、市の境を越えて名取駅で降りました。

路線バス「なとりん号」に乗り換えて、閖上方面に向かいます。

海の気配がしてくると、目的地「名取市サイクルスポーツセンター」に到着です。

名取市閖上東にある名取市サイクルスポーツセンターは、1周4キロのサイクリングロードやおもしろ自転車広場、ハンバーグの人気店「HACHI」が運営するレストランに加え、3×3コート、スケートボード場、フットサルコートのスポーツ施設、天然温泉のある宿泊施設「輪りんの宿」を備えたレクリエーション拠点です。自転車の貸出は、施設内だけでなく施設外へも行っており、ロードバイクやクロスバイクなどで沿岸部を巡ることもできます。
目指す落合観音堂は、名取川沿いをまっすぐ5.5km先。私の作戦は、川の河口付近にあるここで自転車を借り、川の両岸にある札所を一気に巡ってしまおう!というものです。
良さげな電動自転車を借りて、意気揚々とスタートしたのですが……

▲商業施設「かわまちてらす閖上」の前を通り、川の上流に向かいます

……運動神経も体力も皆無の私には、たかが5.5km、されど5.5kmでした。
真っ平らな河川敷を延々と進むだけとは言え、当日は向かい風も強く吹き、じわじわと体力を奪われていきます。
さらに悪いことに、途中で写真を撮るために自転車を降りようとして、転んでしまいました。自転車は無事でしたが、心身は早くもボロボロです。「5kmくらい、良い自転車なら楽ちんでしょう!」という事前の想定は、筋金入りの運動音痴には当てはまりませんでした。ペースはなかなか上がらず、よろよろと落合観音堂にたどり着きました。

▲落合観音堂の境内

落合観音堂の特徴は、江戸時代初期の1627(寛永4)年に建てられ、県の指定文化財に登録されている茅葺き屋根の本堂です。元は近くの袋原地区にあったとされ、伊達政宗が現在地に移したと伝えられています。本堂の中には黒漆塗の厨子(ずし=大切なものを納める箱)があり、本尊の十一面観音像が祀られているそうです。

参考:https://www.sendai-c.ed.jp/~bunkazai/shiteidb/c00580.html

▲素朴ながら歴史の厚みを感じる本堂

よろよろ過ぎて、肝心の本堂外観をアップで撮影しそこねています。県の指定文化財に登録されている由緒ある建造物だということも、後になって知ったのでした。きっと現地の看板には書いてあっただろうに。だめだこりゃ。

▲落合観音堂の裏手からは、これから行く六郷地区が見渡せます。ここに橋を!!

第30番札所 高福院(天台宗)
個人宅で守り継がれる聖観音

ここからいよいよ、名取川の対岸にある若林区六郷地区の観音堂を巡ります。
落合観音堂の裏からは、第30番札所の近くにある仙台市環境局今泉工場(ごみ処理施設)が見えますが、残念ながら、この辺りに橋はありません。結局、ここから来た道を約5km下流に戻って閖上大橋を渡り、さらに5kmほど上流へと自転車を漕ぎ進める必要があります。しかも、自転車は借り物なので、六郷地区を巡り終えたら、サイクルスポーツセンターまで返しに行かねばなりません。走行距離は20kmオーバー……えっ、何この苦行!?
「四郎丸までバスで単純往復するのはつまらない」などと言って、妙案を思いついたような気になっていた数時間前の自分、うらめしや〜。

うらんでも何も始まらないので、とにかく行くしかありません。えっほ、えっほと閖上大橋まで戻り、橋を渡って仙台市に戻り、今泉工場の紅白の煙突をターゲットにひたすら走り続けます。いやはや、なかなか着かない!
四郎丸から今泉まで、車で高速道路を走れば5分ほどでしょうが、とんでもない長旅になってしまいました。しかし、江戸時代の人々は徒歩で巡礼していたであろうことを考えれば、電動自転車という文明の利器に頼っておきながら文句を言う筋合いはありません。

▲やっと近づいてきた今泉工場。風の強さも伝わるでしょうか

ばばばばばと吹き付ける風に押し返されそうになりながら、何とか六郷地区に入りました。ここからは田畑と住宅の混在する一帯に、いくつかの札所が点在しています。

第30番札所の高福院は、すでに廃寺となっており、現在は個人宅の敷地内に赤い屋根の観音堂があります。写真では門扉が閉ざされていますが、塀の回っていない所から敷地に入り、拝むことが可能です。参拝の際は、くれぐれも迷惑をかけないようにしましょう。

第29番札所 祐善寺(浄土真宗今泉山)
深い信仰心を伝える十一面観音像

祐善寺は、高福院観音堂からほど近い、昔ながらの集落の中心地にあります。1617(元和3)年に開基され、本尊は鎌倉時代の作と伝わる十一面観音像です。
この観音堂をはじめ、仙台三十三観音の観音堂には、墓地の一角、または隣接する形で建てられているところも少なくありません。特に撮影の際には配慮が必要です。

▲十一面観音像をまつる祐善寺の観音堂

第28番札所 円浄寺(天台宗観音山)
古くから人々が集う地

祐善寺のすぐ北側、八坂神社の境内と一体になっているような場所にあります。周辺は縄文時代から続く集落で、中世には今泉城と言う城郭(館)もあったのだとか。現在も隣には今泉公会堂があり、地元の人々が集う場になっているようです。

▲八坂神社の拝殿(左)と隣り合う円浄寺観音堂

第27番札所 満蔵寺(真言宗千手山)
開発の陰に息づく修験の歴史

円浄寺観音堂の西側、上飯田地区にあるお寺です。1678(延宝6)年に修験した円鏡坊の開山と伝えられ、明治になって修験道の禁止により廃寺となりましたが、1965(昭和40)年に再興された歴史があります。周辺は急速な宅地開発が進み、道路も旧来の曲がりくねった道と宅地内の私道が入り組んでいるので、迷子にならないように注意が必要です。

▲広い敷地では少し小さく見える観音堂

第26番札所 両全院(修験 本木山)
声に出して読みたい「ニッペタナカ」の響き

満蔵寺からさらに南西へ進み、広瀬川が名取川に合流する付近に広がる日辺(にっぺ)地区の神社の境内にあります。かつて修験道を源流とする両全院というお寺がありましたが、ここも明治になって廃寺となりました。後に神社が移され、境内に観音堂だけが再建された形です。
ちなみに、目の前には市営バスの「日辺田中」停留所があるのですが、個人的に「ニッペタナカ」という響きが気に入りました。声に出して読みたい。

▲両全院観音堂

▲目の前にある「日辺田中」停留所

さて、これで六郷地区(今泉・上飯田・日辺)にある5つの札所を巡り終えることができました。次の札所は地下鉄薬師堂駅の辺りなので、だいぶ距離があります。やれやれ。ひとまず、バスに乗って仙台駅に戻りましょう……とはなりません!
そうです、私は遥か向こうの閖上で借りた自転車に乗って来たのです。借りたものはきちんと返しましょう(当たり前)。川沿いをひたすら、海を目指して走ること6kmほど。無事、予定の時間内に名取市サイクルスポーツセンターへと戻りました。

以上、ここまでが仙台三十三観音巡礼の中でも難関とされる四郎丸・六郷の札所をレンタサイクルで巡るコースでした。体力に自信のある方は、ぜひトライしてみてください。私は二度としません。編集の者ども、なんて仕打ちを!
……しかし、巡り方は自分で考えたものですからねぇ……。

次回は日を改めて、仙台市中心部の札所を巡っていきますよ!

借りたものは返さなければいけないのを忘れずに

恐山R
十八夜観音堂までは何の問題もなさそうだった巡礼の旅が一転、名取で自転車借りていこうと思い立った辺りからハードモードと化している……
編集S
突然閖上の方に向かいはじめたくらいから雲行きが怪しくなってきた

DATE BIKEのように各地にポートが設置されていて好きなところで返却できるバイクシェアサービスならともかく、借りた場所に返しに行かなければいけないレンタサイクルの利用は計画的に……という教訓も得られるかいさんの巡礼の旅 第一部、いかがでしたでしょうか。
太白区・若林区エリアに馴染みのある方にとっては見慣れた光景もあったかもしれません。かくいう私も太白区暮らしがそこそこ長いため、懐かしい街並みのなかに新たな景色を発見したような思いです(多少馴染みがあるがゆえにかいさんが自転車で巡ったコースの過酷さもひしひしと肌で感じられます)。33箇所全てを巡るのは大変ですが、地元にある観音堂なら比較的訪ねやすいはず。散歩やお買い物、何かの用事のついでにお参りしてみるのもいいかもしれません。

開幕からかなりヘビーな仙台三十三観音逆打ち巡礼の旅ですが、巡るべき観音堂はまだまだたくさん残っています。今後のかいさんの旅路もぜひ、一緒に見守っていただけますと幸いです!

それでは、また次回の無茶ぶりクエストでお会いしましょう~!続きもお楽しみに!

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著者紹介

佐々木かい(ささき・かい)

フリーの聞き手・書き手。1990(平成2)年、仙台市生まれ。地方新聞社の記者、社会福祉法人の広報職などを経て現職。主に地元企業の人材採用や情報発信のお手伝いなどに面白さを感じています。【急募】仕事と同じくらい楽しいこと【服装自由】

執筆:佐々木かい
編集:S