堅物記者の無茶ぶりクエスト #3 【仙台市役所本庁舎市民向け見学ツアーにいってらっしゃい!?】

文化

チャレンジクリエイター名鑑No.2でご紹介した、フリーライター・佐々木かいさん。

真面目でお硬いイメージを払拭し、苦手としている主観的な発信に挑戦していきたい……!というかいさんのやっぱりどこか真面目な思いを受けまして、ウラロジ仙台では、かいさんへの無茶ぶり企画「無茶ぶりクエスト」の連載をスタートすることになりました。

無茶ぶりクエストとは
ウラロジ仙台編集部から課された若干無茶なお題・ミッションのクリアを目指し、その過程をコラムにして提出していただくという連載企画。佐々木かいさんの「苦手分野にも挑戦していきたい」という心意気を応援するものであって、決して彼が突然の無茶ぶりに右往左往する様を見て楽しみたいとかそういうことではありません。

S
前回は仙石線のおもしろ豆知識5つを調査してもらった結果、鉄道オタクのポテンシャルを思いがけず存分に発揮してもらったわけですが。今回はどうしましょうね。

らむね
なんか、前にウラロジニュースでも取り上げた「仙台市役所本庁舎市民向け見学ツアー」、ウラロジ仙台でも取材に来たら?っていう謎のプレスリリースもらったんだよね。

S
あれね~。ひとつ疑問に思ってたんですけど。電光時計の裏側って、見て楽しいものなのかな……
恐山R
Sさんって急にめちゃくちゃ言い出すときあるよね。じゃあせっかくだし、見てきてもらいますか?

今回の無茶振りは……

プロローグ:アイストップ

建築の世界に、「アイストップ」という用語がある。

人の視線を引き付けるために、意識的に設けられたものを指す。廊下の突き当りに置かれた花瓶や、階段の踊り場に飾られた絵画など、身の回りには多くの「アイストップ」があることに気づく。

一番町の商店街を北に向かって歩いていると、広瀬通を渡る辺りから、遠くに輝くオレンジ色の数字が見えてくる。勾当台の仙台市役所本庁舎に掲げられている「電光時計」は、仙台の街を代表する「アイストップ」だと思う。

日付と時刻だけのシンプルな表示は、少々時代がかっている。何しろ、本庁舎が完成した1965(昭和40)年からあるという。あまりにも昔のことなので、多くの方にはピンとこないかもしれない。アニメ『オバケのQ太郎』『ジャングル大帝』の放送が始まった年、と言えばイメージがつくだろうか。「一番町から見える電光時計」は、60年近く変わらない景色なのである。

仙台市役所本庁舎

竣工年:1965年(=築58年)
高さ:8階
延べ床面積:31,237㎡(本庁舎+議会棟)
設計:山下寿郎設計事務所(現・山下設計)
施工:大林組

改めて見ると、市役所本庁舎は確かに古い。コンクリートの無骨な見た目はいかにも「高度経済成長期」の産物だ。東北の県庁所在地では、盛岡市に次いで2番目に古い本庁舎である。

何年も前から「そろそろ限界では…」と思っていたが、いよいよ建て替えの時が来た。5年後の完成を目指して、地上15階・地下2階の新しい本庁舎を建てる工事が始まる。市は2023年8月、議会棟など一部の解体工事に着手するのを前に、市民向けに見学ツアーを開いた。いわば「お別れ会」である。私も市民の一人として、特に「電光時計のある風景」に親しんできた者として参加してきた。

低い天井は「背伸び」の証

ツアーは8月18、19日に3回ずつ行われ、各回およそ20名が参加。市の本庁舎整備室の方の案内で、お別れが迫る本庁舎の見どころを巡った。

当日はとても蒸し暑く、庁舎内も熱気がムシムシとこもっていた。以前から、「開放的」といった言葉とは縁遠い、天井が低く薄暗い印象だったが、暑い日にはなおさらである。

ただ、そんな天井の低さにも理由があった。

当初は、本庁舎を地上5階建てにする予定だったところ、都市の今後の発展を見込み、急きょ8階建てに設計を変更したのだという。当時は、建築物の高さは百尺(31メートル)に制限されていた。高さ制限いっぱいにフロアを増やした結果、全体的に天井が低い造りになった。完成当時の市の人口はおよそ48万人で、その後も大きく増え続けていく。低い天井は、急成長する仙台市の未来を見越した「背伸び」の結果だったのである。

議会を彩る工夫

ツアーでは、一足先に解体が始まる「議会棟」も見学した。仙台市議会が開かれてきた建物である。

手前の長机に各区から選出された議員が、正面奥に議長、両サイドに市長や区長ら当局側が座る。ここだけは広々と開放的な空間で、音響にもかなり気を遣って設計されたという。

議長席からの眺め。手前には議員の質問台、そして「速記」を行う台もある。上側は市民の傍聴席と、報道陣が取材を行うスペース。今回の参加者からは「議会の本会議は誰でも見られるのか?」という質問もあった。はい、誰でも見に来られます。皆さんもぜひ。

議会棟で特に印象に残ったのは、正面の天井に施された装飾である。緑色を基調としたグラデーションで、波模様を描いている。デザインとしての美しさだけでなく、質問者が原稿を読む際、手元に影が落ちないように設計されているのだという。きめ細かな心遣いに設計者の苦労を想った。

 

「電光時計視点」の仙台

議会棟を後にした一行は、屋上へと向かう。いよいよ、電光時計と目の前で対面できる。屋上からの眺めも楽しみではあったが、30階を上回る高層ビルも建っている今の仙台にあって、本庁舎の背はかなり低い。正直なところ、さほど期待はしていなかった。

それでは、ご覧あれ。「電光時計視点」の仙台である。

「おお」と思わず息を呑み、そして「どこだよ」とつぶやいた。

なぜだろう。見慣れていたはずの、そして普段は何かと不満もある我が街が、とても美しく輝いて見える。まるで杜の都みたいだ。

一番町からは小さく見えていた電光時計も、間近で見ればそれなりに大きかった。

電光時計の真下から見た一番町の商店街。まっすぐに続くアーケード街が、テレビ塔の建つ大年寺山の緑へと溶け込んでいくようにも見える。「ああ、時計から私たちはこう見えていたのか」と感慨深いものを覚えた。

本来、時計は庁舎の中央に掲げられるはずだったが、一番町から正面に見えるようにと、あえて東側にずらしたのだという。まさに、都市景観を意識して作られた「アイストップ」だった。

気になる電光時計の裏側も見学することができた。近年になってLED電球に切り替えられたというが、大量の電球が並ぶ様子は圧巻だった。

昼休みの屋上は青春の舞台?

普段入ることのできない屋上では、他にも気になるものが多く見つかった。

中でも参加者の驚きを呼んでいたのは、まさかの空間の存在である。

これは紛れもなく「コート」である。ラインの引かれ方からすると、バスケットボールやバレーボールで使われていたように見える。

1980年代の漫画かドラマで、昼休みになると社員がオフィスビルの屋上でバレーボールを楽しむ描写を目にした覚えがある。現代でも、東京の意識高い系のビルにはフットサルコートやボルダリングの壁などがザラにある、と噂に聞くが、それらの「ご先祖様」と言って良いのかもしれない。かつてこの場所で、ワイシャツを腕まくりした職員たちが青春の(?)汗を流していたのだと思うと、少しドキドキする。

一方、運動オンチで球技の苦手な筆者は、「そんな時代に就職しても、青春の輪には入れなかっただろうな…」と勝手に落ち込むなどした。何しろ、コンクリートのコートで転んだらとても痛そうだ。

他にも見どころいっぱい!

杜の都をイメージし、緑を基調とした外壁のタイル。よく見ると、一つとして同じ色のものは無い。緑の色があえて一様には仕上がらないよう、タイルを特別注文し、深みが効果的にできることをねらったものだという。

一角で「新世紀」の残り香を見つけた。あの頃に夢見た21世紀は、実際なかなかのハードモードである。

随所にあるレトロな「フォント」 を使った階数表示のサイン。参加者からの反響が大きく、「残してほしい」との声も多く聞かれた。

新たな「アイストップ」になる庁舎を

蒸し暑さの中、意外な驚きや発見の連続だった見学ツアーは幕を閉じた。

以前は、あまりにも目立つ老朽化に「早く建て替えたほうが…」としか思っていなかったが、ツアーに参加したことで、「古くて薄暗いばかりではなかったんだな」と、新たな感情を寄せながら、本庁舎の最期を見届けることができるようになったと思う。

特に、電光時計の視点から眺める仙台の景色は印象的だった。

2028(令和10)年度の完成を目指す新庁舎は、高さ約80m、地上15階建ての高層ビルとなるため、必然的に、現在の本庁舎よりも大きな存在感を放つ建物になるだろう。その一方、完成予想図を見る限りでは、「電光時計」の代わりに「アイストップ」として機能しそうなデザインは、今のところ描かれていないように思う。具体的な検討はもう少し先なのだろう。せっかく約60年ぶりに建て替えるのだから、新たな庁舎も、一番町の商店街から自然と目線が行く「アイストップ」として、長く親しまれるものになってほしい。

急にめちゃくちゃエモい回

S
本当に前回の鉄道オタクと同じ人が書いた文章?
恐山R
電光時計の裏側、ちゃんと面白そうじゃないですか!
S
電光時計の視点で仙台の街を見られるというのは盲点でした。私が浅はかだった。完敗です。
恐山R
何の勝負?

新市庁舎の完成はもう少し先のこと。その頃の仙台の街並みはどう変化しているのか、変化した街並みに新市庁舎はどうフィットするのか……過去を見つめ直すとともに未来へも目を向けさせてくれる素晴らしいエッセイ、ありがとうございました!

S
(……でもIQは上がっちゃったかもな……)

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著者紹介

佐々木かい(ささき・かい)

フリーの聞き手・書き手。1990(平成2)年、仙台市生まれ。地方新聞社の記者、社会福祉法人の広報職などを経て現職。主に地元企業の人材採用や情報発信のお手伝いなどに面白さを感じています。【急募】仕事と同じくらい楽しいこと【服装自由】

執筆:佐々木かい
編集:S