堅物記者の無茶ぶりクエスト #2 【仙石線のおもしろ豆知識5つを調査・報告せよ】

場所

チャレンジクリエイター名鑑No.2でご紹介した、フリーライター・佐々木かいさん。

真面目でお硬いイメージを払拭し、苦手としている主観的な発信に挑戦していきたい……!というかいさんのやっぱりどこか真面目な思いを受けまして、ウラロジ仙台では、かいさんへの無茶ぶり企画「無茶ぶりクエスト」の連載をスタートすることになりました。

無茶ぶりクエストとは
ウラロジ仙台編集部から課された若干無茶なお題・ミッションのクリアを目指し、その過程をコラムにして提出していただくという連載企画。佐々木かいさんの「苦手分野にも挑戦していきたい」という心意気を応援するものであって、決して彼が突然の無茶ぶりに右往左往する様を見て楽しみたいとかそういうことではありません。

S
前回は比較的簡単なお題として、むにゃむにゃ通り商店街におつかいに行ってもらったわけですが。

らむね
今回はちょっと難易度上げていきましょう。もっとこう、ミッション感もプラスして……

今回の無茶振りは……

 

困った。

とんでもなく難しいクエストである。
私の非常に苦手とする課題に、第2回にして斬り込んできた。

本当に困った。
ウラロジ仙台編集部、恐るべし。

私が本気で困った理由は、この先を読んでいけばすぐに分かる。本当にすぐに分かると思うので、ちょっとだけお付き合い願いたい。

▲仙石線と言えば、海を感じるこの色のイメージ。

まずは仙石線の基本情報をおさらい!

JR仙石線は、仙台市のあおば通駅から石巻市の石巻駅までを結ぶ、全長およそ50キロメートルの路線である。地元の方にとっては通勤通学の足として、観光客の方には松島海岸への足としてもお馴染み。沿線には仙台育英学園高等学校や東北学院中学校・高等学校などの学校も多いので、「青春時代の思い出の電車」という方も多いのでは?


▲他のJR線よりも「下町感」がある気がする。

基本情報……?

同じJRでも東北本線や仙山線といった県内の他のJR線とは異なる特徴をいくつも持っている。

一番分かりやすい特徴は、JR仙台駅に乗り入れる在来線の中で、仙石線だけが地下ホームから発車すること。元々は1925年、「宮城電気鉄道」という私鉄として開通した歴史的経緯によるもので、2000年に今の地下区間ができるまでは、今で言うBivi仙台駅東口の裏手の辺りという何とも微妙な場所に独立した駅があり、何なら終点の石巻駅も、一昔前まで石巻線の乗り場とは別の場所にあった。

戦時中の1944年に国有化→1987年にJRへ


▲本塩釜の先で街中から海辺に出る所、テンション上がらない?

おさらい……?

ついでに、電車を動かすための電気を流す仕組みも、東北本線などは「交流」なのに対し仙石線は「直流」。首都圏などで使われているのと同じ規格なので、東京の山手線などで酷使された中古の電車が活躍している。

そして、駅と駅の間隔が割と短い。例えば、仙台駅から東北本線下りで1つ目の「東仙台」までは4.0キロだが、仙石線では「あおば通」から同じ4.0キロの間に「仙台」「榴ヶ岡」「宮城野原」「陸前原ノ町」「苦竹」と、5駅もあ……

あっ……。

さて、ここまで、否、この倍くらいの分量を快調に書き上げてから、ふと我に返り、ひどく赤面し、脂汗をかきながらガタガタと震えている。

ここまでお付き合いいただいたような文章は、俗に何と言うか?

「オタク特有の早口」である。

もはや白状するまでも無い。私は小さな頃から乗り物が好きで、中でも鉄道は結構な思い入れを持って愛してきたジャンルだ。

学生時代には「青春18きっぷ」で全国を旅し、何なら先日も東京に用事があったので、新幹線でも高速バスでもなく常磐線の特急「ひたち」で行った。4時間以上かかった。ええ、楽しかったですとも!

▲東京まで4時間以上も電車に乗れるよ♪

知識は諸先輩方に遠く及ばないが、世間から見れば立派な「鉄道オタク」だろう。

……。

恥ずかしい。

別に、鉄道オタクであることを恥じているのではない。

書くことを本業としながら、いざ自分の本当に好きなジャンルについて書き始めれば最後、我を失って筆を走らせてしまうことが恥ずかしくてならない。

きっと、最初に原稿を読んだ編集のSさんにも、読者の皆さんにも引かれている。

だから、避けてきたのだ。

自分の「好き」について語ることを!

 

(参照: https://urarozi-sendai.com/personal/7011/

 

運転見合わせ

Sさんには、原稿を6月アタマまでに提出するよう言われている。

今は5月29日の22時57分。

タイムリミットは迫っているが、クエストをクリアできる見通しは立たない。

皆さんにシェアしたい豆知識ならば、たくさんある。

以前から「オタク」として知っていたことだけではない。今回の記事を書くために調べ直したことで知ったこと、そして5月17日、実際に仙石線に乗りに行って発見した面白い話もある。

だが、いざ書こうとすると、普段の仕事で納品しているような文章にならない。
どうすれば、冷静で客観的な視点から、仙石線の面白さを伝えられるのだろう。

思考は、完全に止まった。

▲取材は仙石線っぽい色のTシャツで臨んだ。今となっては虚しい。

助けて、人工知能。

翌日(5月30日)、20時28分。半ば自暴自棄になった私は、何としてもクエストをクリアするために、禁断の手を使うことにした。そう、「例の人工知能」に聞いてみればいいじゃないか。そうすれば、これ以上の醜態を晒すことは無い。時代は、オタクの自己顕示欲とは無縁のAIである。

私は心を「無」にして、ChatGPTに助けを求めた。

「JR仙石線の面白い豆知識を5つ教えてください」

「やれやれ」

僕は読んでもいない小説の文体を真似て、隣の女に目をやった。「参考になるかわからないけれど、この場合の『海辺』は」。その女は、にっこりと頷いた。「石巻かもしれないし、矢本とも言い切れないわ」。「野蒜なのかもしれない」。「そう、野蒜」。

※村上春樹氏は京都市生まれ、鯨波駅は実在するが新潟県の駅、そしてそもそも『海辺のカフカ』は東京・中野出身のカフカさんが香川県高松市周辺を旅する話。つまり本作品でいうところの「海辺」はおそらく瀬戸内海で、間違っても石巻や矢本や野蒜のことではないと思われる。

豆知識 ①:AIによると、ハルキストの聖地。

頼みの人工知能は、その後も想像の斜め上を行く「豆知識」を生成し続ける。ガラス張りの展望車を走らせ、塩釜に温泉を掘り、車内販売を導入した。

発展途上ゆえに暴走し続ける人工知能の自由奔放さに、私は人類としての自信を少しだけ取り戻したのである。やれやれ

気を取り直して、ここからは「本当の」豆知識をご紹介する。


▲福田町駅はもうすぐ、移転する。これも豆知識?

豆知識 ②:仙石線を歌った「テクノ」の楽曲がある。

鉄道が登場するご当地ソングと言えば、石川さゆり『津軽海峡・冬景色』、くるり『赤い電車』、aiko『三国駅』などなど、例を挙げれば切りが無い。実は、仙石線もしっかりと歌われている。しかも、まさかのテクノ。

その楽曲とは、SUPER BELL”Z」が発表した『MOTER MAN 仙石線』である。「SUPER BELL”Z」はDJ野月貴弘氏を中心としたテクノユニットで、各地の鉄道の車内放送をテクノ・ポップに乗せてユーモラスに表現する「MOTER MAN」シリーズは、当時話題となった。「あ・あ・あ・秋葉原です」「わぁらびぃ〜(蕨)」などのフレーズをご記憶の方もおられるのでは?

本作では、石巻を出発した快速電車で、車掌が華麗なDJプレイを披露しながら仙台(あおば通)へと向かう。と、書くだけでは何一つ伝わらないと思うが、なかなかコミカルでカオスな曲なので、気になる方はぜひ聴いてみてほしい。

豆知識 ③:石巻駅では、平日と土日で違う発車メロディが流れる。

続いても音楽に関する豆知識を。地元の方にはおなじみかも知れないが、石巻駅の仙石線ホームでは、電車が発車する際、平日(月〜金曜日)と土日で違うメロディが流れる。


▲石巻駅

どちらのメロディも、地元出身の作曲家・和泉耕二氏が制作したもので、月〜金曜は「A Sea Bird 」、土・日曜には「Sea Green」という異なる曲を聞くことができる。特に土日用の「Sea Green」には波の音やウミネコの鳴き声が盛り込まれ、鉄道ファンには「泣きメロ」として有名である。(録音に行けなかったのが悔やまれる)

豆知識 ④:絶妙に押しにくいドアボタンがある。

仙石線には、登米市出身で石巻市ゆかりの漫画家・石ノ森章太郎の作品に登場するキャラクターをラッピングした電車、その名も「マンガッタンライナー」が運行されている。仙石東北ラインと仙石線に1編成ずつのレアな存在なので、見かけただけでもラッキー…であるが、私は偶然、多賀城駅で見つけてしまった。そのレアな電車に1か所だけ、絶妙に押しにくい「ドアボタン」があることを…。

 

ノーコメント。

……次に行きましょう。

豆知識 ⑤:下馬駅前に「WEB掲載NG」だけど楽しすぎる店がある。

多賀城市と塩竈市の境にある。ホームは多賀城市、右上に見えるビル(病院)は塩竈市。

下馬(げば)駅から徒歩数分のところで偶然、店主とのおしゃべりが楽しすぎる飲食店を発見した。写真・店名掲載はNGとのことだったが、トークの「議事録」を載せることをお許しいただいた。なんとなくノリや雰囲気が伝われば嬉しい。

=議事録=

私:こんにちはー。

?:(席)全部あいてまーす!

私:初めてなのですが、どれがおすすめですか?

?:全部自信が無いから。聞かれても困るんですよね。

私:『ウラロジ仙台』というWEBメディアでして。ご紹介してもよろしいですか?

?:ネットは、ちょっとね。いきなり満席になっても困るじゃない?

私:SNSでいきなり人気になったりしますからね。

?:お金は大好きだけど、ラクして稼ぎたいから……。あと、人見知りだし。

私:そうなんですか!?

 

…とても楽しく、サービス満点で、料理も美味しかった。私はリピートするつもり。下馬にお越しの際は、ぜひ。

 

以上、仙石線の「おもしろ豆知識」5つをご報告いたしました!

いやー、一時はどうなるかと思ったが、何とかクリアできたのではないだろうか?と、思いながら、ウラロジ仙台編集部からの指示(LINE)を見返す。

 

ん…?

「調査・報告せよ」…

 

うーん…?

まあ、いいか。

「やれやれ」。僕は安堵した。

鉄道オタクに鉄道のミッション振っちゃった

S
すんごい熱量。らむねさん、かいさんが鉄道オタクだって知ってました?

らむね
交通の話題が好きって言ってたのは覚えてたけど、まさかここまでとは。めちゃ面白いことになっちゃった。

S
困ったらヒント出しますとか言ったのに全然必要なかった。


▲クエスト発表時のLINEでのやりとり。まじで何を言ってるんだ

結構がっつりフィールドワーク的な感じでやってもらうことになるかな、大変だったかな……とちょっと心配していたのですが全くの杞憂に終わりました。期せずしてさっそく好きなものについて語っていただくことに成功してしまった。

なんだかいきなりクリティカルなところにヒットしてしまいましたが、これからもウラロジ仙台編集部ではかいさんにどんどん無茶ぶりしていく予定です。次回もまたオタク特有の早口が出るか、それともまた真面目でスマートな語り口に戻ってしまうのか……!?乞うご期待!

ウラロジ仙台では、作品を発表したいクリエイターの方を募集しています!

ウラロジ仙台では、地元・仙台を中心に活動しているクリエイターの方々を応援しています。

作品をweb上で発表する機会を作ることで、創作活動やコンペへの応募に向けてモチベーションがほしい」「もっと多くの人に見てもらいたいから一緒に発信方法を考えてほしい……そう考えている方は、ぜひウラロジ仙台編集部(代表メール:info@studio-soda.com)まで、作品(もしくは作品に関係する企画・アイディアなど)を添えてご連絡ください。

エッセイ・小説・漫画、その他ジャンルは問いません。
ウラロジ仙台編集部と一緒に、魅力的な作品をつくってばんばん世の中へ出していきましょう!

 

著者紹介

佐々木かい(ささき・かい)

フリーの聞き手・書き手。1990(平成2)年、仙台市生まれ。地方新聞社の記者、社会福祉法人の広報職などを経て現職。主に地元企業の人材採用や情報発信のお手伝いなどに面白さを感じています。【急募】仕事と同じくらい楽しいこと【服装自由】

 

執筆:佐々木かい
編集:S